■魔王と3人の晩餐会
私たちは綺麗なテーブルと椅子が置かれている部屋にやってきた。
貴族が住んでいそうな、とても綺麗な部屋だった。
「この部屋で待っていてくれ。
お腹すいたろう。食事を持ってきてあげるよ」
そう言って、魔王さんは別の部屋に移動する
私たち3人はそこに座って、一息ついた。
死ぬかもしれなかった魔王さんとの戦いだった。
「魔王と戦ったのもそうだけど、
今置かれている状況もなんだかよくわからなくて疲れちゃった・・・・・」
「魔王さんは私たちを国に帰してくれるようだし
もう心配することは無いみたいだよ」
私は必死にフォローする。
「そのことなんだけど・・・・・・」
シュートくんが真剣な顔で私の方を見る。
「モコモコさん、
俺とサクヤが閉じ込められている間に何があったんですか?
魔王に何か言われたんじゃないんですか?」
「ええっと・・・・・その・・・・・」
説明は魔王さんに任せたかったのだけど・・・・・。
どう説明すればいいのか・・・・・。
私が犠牲になったと言えばシュートくんとサクヤちゃんは混乱する。
何とかつじつまが合うように誤魔化さないと。
確か魔王さんは、もう人族とは争わないと言っていた。
「魔王さんは争いが嫌いなんだって。
それで人族の言葉を覚えて、仲良くしようとしているみたいよ」
「ほーほー、そう言えば魔族なのに人族の言葉がわかるね」
「魔王がそんなことを考えていたとは・・・・・」
二人は納得してくれているようだ。
「それじゃあ、もう人族と魔族は争わないってこと?
世界は平和になったの?」
「詳しいことは私もわからないけど・・・・・
魔王さんは争う気が無いと言ってたわ」
そこへ、食事を持って魔王さんがやってきた。
多くの触手を使い、食事を運んでいる。
「私はこう見えても平和主義者でね。
戦わないで済むなら、それにこしたことはない。
さ、お腹すいたろう。食べてくれ」
魔王さんはテーブルに食事を並べた。
「うわ~、すごい! 魔王が作ったの?」
「ああ、お前たちが来ることはわかっていたからね。
食事を用意していたんだよ」
「お、俺たちは魔王を倒しにやってきたのに、
魔王は食事でもてなす用意をしていたのか・・・・・」
「ハッハッハ、お前たちに倒されるほど私は弱くはない。
さ、遠慮なく食べてくれ」
魔王さんはそう言うけど・・・・・。
私たちは食事を前に手を出せずにいる。
「こ、これって何の肉?」
サクヤちゃんた聞いた。
「人が食べるものと同じで、牛や豚、鳥肉を使っている」
「そうなんだ! 魔族って人族と同じもの食べるんだね!」
サクヤちゃんが食べた。
それを見て、シュートくんと私も食べてみる。
「普通にうまいな。人族の料理とかわらない」
「おかわりもあるから、遠慮なく食べていいぞ~」
みんなで楽しそうに食べている。
魔族と人族なのに、不思議な光景だ。
でも、シュート君が真面目な顔をして、魔王さんにこう言い出した。
「ここでこんな話をするのもなんだけど・・・・・」
「ん? なんだ? 言ってくれ」
「今までの勇者たちの遺体を返してくれないか?
もちろん、魔王を殺しに来たのだから殺されるのは仕方ないとしても
せめて骨は家族の元に返してあげたいんだ」
「なるほど・・・・・」
魔王さんは箸をおき、眼を瞑り、そして腕を組んだ。
「しかし、私はここにやってきた勇者を一度も殺したことがないぞ」
「え? でも、魔王城に行った勇者は誰一人戻って来てないって・・・・・」
「ああ・・・・・」
魔王さん視線を斜め上に向け、手で頭をかいた。
どうやら心当たりがあるみたいだ。
「私を殺しに来た奴らだからな。
とりあえず、老若男女とわず装備を引っぺがして、全裸にして
体中の毛もそり落として、それから外に放り出したんだよな」
「ええ!?」
サクヤちゃんが自分の髪の毛を手で押さえる。
「ツルツルにされて恥ずかしかったんじゃないか?
ま~、1年もすれば髪もある程度伸びるだろう。
髪が伸びてから、コッソリ国に戻ってるとかじゃないの? 知らんけど」
「そ、そうだったのか・・・・・
てっきりみんな殺されたのだと」
「私から見れば人などか弱い存在だ。
いちいち目くじら立てて殺すようなことはしない」
「な、なるほど・・・・・」
「なんだか、考えていた魔王とまったく違うんだね。
戦いを仕掛けた私たちの方が悪者みたいだよ。
それに、魔王ってこうしてみるとぜんぜん怖くないね」
「ふっふっふ、そうだろそうだろ」
サクヤちゃんが食べ物をほおばりながらそう言う。
魔王さんはなぜか喜んでいる。
でも、本当にそうだ。
まるで昔からの知り合いどうしが会話しているみたいだ。