■魔王との晩餐会
私たちは魔王さんに言われた通り、案内された部屋に入った。そして、席につき、魔王さんが食事を持ってくるのを待った。
テーブルも椅子もとても豪華で綺麗だ。どこかの貴族が使っているような豪華さだ。魔族が作ったのかな? 魔族にこんなものをつくれる文化があるということ? それとも、人族から奪ったのか? 私は部屋を見渡しながら色々なことを考えていた。
シュート君も私と同じように部屋の中をウロウロしている。本当に大丈夫なのかどうか、まだ警戒しているようにも見える。
サクヤちゃんは椅子に座って、テーブルに寝そべった。
「なんだか腰を下ろした途端、どっつ疲れちゃった・・・・・。魔王は本当にこのまま返してくれるのかな?」
「少し話してみたけど、そんなに悪い人でもなかったから心配ないよ」
サクヤちゃんを安心させようと思って、私はそう言った。
「魔王ほどの強さがあるなら、いつでも俺たちを殺せる。それをしなかったということは、殺す気は無いということだろうな」
「それじゃあ、本当に大丈夫なんだ」
「ああ、そう思うんだが・・・・・」
シュートくんが真剣な顔で私の方を見る。
「モコモコさん、俺とサクヤが閉じ込められている間に何があったんですか? 魔王に何か言われたんじゃないんですか?」
「え? ええっと、その・・・・・」
説明は魔王さんに任せたかったのだけど・・・・・。どう説明すればいいのか・・・・・。私が犠牲になったと言えばシュートくんとサクヤちゃんは動揺し、また魔王さんと戦おうと考えるかもしれない。何とかつじつまが合うように誤魔化さないと・・・・・。
確か魔王さんは、もう人族とは争わないと言っていた。
「魔王さんは争いが嫌いなんだって。それで人族の言葉を覚えて、仲良くしようとしているみたいだよ」
「ほーほー、そう言えば魔族なのに人族の言葉が喋れるね」
「確かに人族の言葉を使える魔族に出会ったことが無い。そうか・・・・・魔王がそんなことを考えていたとはな・・・・・」
二人は納得してくれているようだ。
「それじゃあ、もう人族と魔族は争わないってこと? 世界は平和になったの?」
「詳しいことは私もわからないけど・・・・・。魔王さんは争う気が無いと言ってたわ」
そこへ、食事を持って魔王さんがやってきた。多くの触手を使い、複数の食事を運んでいる。
「私はこう見えても平和主義者でね。戦わないで済むなら、それにこしたことはない。さ、お腹すいただろう。食べてくれ」
魔王さんはテーブルに食事を並べた。
「うわ~、すごい! どこかのレストランの食事みたい! 魔王が作ったの?」
「ま~ね。することも無く一人でここに住んでいるから、料理は上手くなってしまった」
「へ~、そうなんだ~」
「さ、人族の礼儀作法とかよくわからんし、細かいことは気にせず好きに食べてくれ」
魔王さんは私たちにそう言ってくれた。でも・・・・・。私たちは3人には気がかりなことがあり、顔を見合わせた。この料理って、どういった食材を使っているのだろう・・・・・。
ここは私から聞くことにした。
「ま、魔王さん。これって何の肉?」
それを聞いて、魔王さんは「ああ、なるほど」という顔をした。
「人が食べるものと同じで、牛や豚、鳥肉を使っている。人族も魔族も料理の食材はそんなに変わらない。だから、心配しなくて大丈夫だぞ」
「そうなんだ! 魔族って人族と同じもの食べるんだね!」
サクヤちゃんが食べた。それを見て、シュートくんと私も食べてみる。
「普通にうまいな。人族の料理とかわらない」
「おかわりもあるから、遠慮なく食べていいぞ~」
みんなで楽しそうに食べている。姿を人族にしているってこともあるけど、魔王さんが魔族だということを忘れてしまいそうだ。
でも、シュート君が真面目な顔をして、魔王さんにこうきりだした。
「ここでこんな話をするのもなんだけど・・・・・」
「ん? なんだ? 言ってくれ」
「今までの勇者たちの遺体を返してくれないか? もちろん、魔王を殺しに来たのだから殺されるのは仕方ないとしても、せめて骨は家族の元に返してあげたいんだ」
シュート君の言葉を聞いて、魔王さんは少し驚いた。だけど、すぐに納得するような表情をする。
「ああ・・・・・なるほど・・・・・」
魔王さんは箸をおき、眼を瞑り、そして腕を組んだ。
「とは言っても、私はここにやってきた人族を一度も殺したことはないぞ」
「え? でも、魔王城に行った勇者は誰一人戻って来てないって聞いているが?」
「なるほど・・・・・」
魔王さん視線を斜め上に向け、手で頭をかいた。どうやら心当たりがあるようだ。
「一応は私を殺しに来た奴らだからな~。とりあえず、罰として老若男女とわず装備を引っぺがして、全裸にして、体中の毛もそり落としてツルッツルにして、それから外に放り出しているんだよな~」
「ええ!?」
サクヤちゃんが自分の髪の毛を手で押さえる。
「ツルツルにされて恥ずかしかったんじゃないか? ま~、1年もすれば髪もある程度伸びるだろうし。髪が伸びてから、コッソリ国に戻ってるとかじゃないのか? 知らんけど」
「そ、そうだったのか・・・・・。てっきりみんな殺されたのだと」
「私から見れば人などか弱い存在だ。私を倒しに魔王城にやってきたからと言って、目くじら立てて怒るほどのことでもない。ちょっと恥をかいてもらって、お引き取り願うだけのことだ」
「な、なるほど・・・・・」
魔王さんの考え方、どう判断すればいいのだろうか・・・・・。
黙って聞いていたサクヤちゃんが喋りだす。
「考えていた魔王とまったく違うんだね。なんだか戦いを仕掛けにきた私たちの方が悪者みたいな気がするよ。それに、魔王って話してみるとぜんぜん怖くないんだね」
「ふっふっふ、そうだろそうだろ」
サクヤちゃんが食べ物をほおばりながらそう言う。でも、本当にそうだ。まるで昔からの知り合いどうしが会話しているみたいに感じる。