■■ 人族が魔王に勝てるはずがない
私と魔王さんは、シュートくんとサクヤちゃんを閉じ込めている球体の前に立つ。
「それじゃあ、2人を出すよ」
「はい、お願いします」
魔王さんは空中にあった球体を地面に下ろした。そして、球体が割れ、中にいたシュート君とサクヤちゃんが出てきた。2人とも閉じ込められただけで、怪我をしている様子はなかった。
「あ、出られた」
「サクヤ! 大丈夫か?」
「う、うん。あ、モコモコちゃん、その人は誰?」
「え? こ、この人は・・・・・」
私の隣に立っているのは魔王さんなんだけど・・・・・。さっきまでは「スライム」の姿だったため、シュートくんとサクヤちゃんには誰なのかわからないようだ。でも、一体なんて説明すればいいんだろうか・・・・・。
「さっきまで君たちと戦っていた魔王だよ」
魔王さんが答えてくれた。だけど、その台詞は・・・・・。
「ええ!!」
「クッ!!」
サクヤちゃんは数歩下がって杖を前に出し身構える。シュート君は剣を構えて、サクヤちゃんを後ろにし守ろうとしている。眼の前に目の前に魔王がいるのだから当然の反応だと思う。
「ちょっと待って! 大丈夫、もう戦闘は終わったから!」
私は慌てて2人に説明しようとしたけど、魔王さんは私を遮り、2人に説明しだした。
「さっき私とモコモコの2人で話し合いをしてね。これ以上戦っても意味が無いからお互い剣を収め、平和的に話しあおうということになったんだよ」
「う、うん! そうなのよ! だから武器をしまって!」
シュートくんとサクヤちゃんは顔を見合わせる。サクヤちゃんはシュート君の後ろに隠れたままだけど、シュート君は理解してくれたようで、剣を下ろしてくれた。
「どのみち戦っても勝ち目は無さそうだったしな。だけど、モコモコさん、どうしてそう言うことになったんですか?」
「そ、それは・・・・・」
どう説明すればいいんだろう? 私は助け舟を出してもらいたく、魔王さんの方を見る。
「ここでは何だし、とりあえず場所を変えよう。こっちに来てくれ」
そう言って、魔王さんは私たちを魔王城の奥の通路へと案内した。
通路を歩いている最中、魔王さんは後ろからついて来る私たちにこう語りだした。
「シュート18歳、剣士レベル112、サクヤ18歳、魔法使いレベル119、モコモコ19歳、弓使いレベル95、聖女レベル89でもある」
魔王さんは私たちの情報とレベルを言い当てた。普通はギルドで教えてもらわなければわからないはずなんだけど。
「すごい、そこまで詳しくわかるんだ」
「私は3000年以上生きているからね。長く生きていれば色々なことができるようになるものだ。ちなみに、私は魔王レベル4700だぞ」
「よ、4700・・・・・」
あまりの数値にシュートくんとサクヤちゃんは驚き、立ち止まってしまった。そんな2人に、魔王さんは振り返り、笑いながらこう言った。
「私と戦っている時、まったく勝てる気しなかっただろう? あの時はレベル300くらいの強さで戦っていたんだぞ。本気を出していたら、威圧だけでショック死しかねないからな~」
「ま、まさかそこまでレベル差があったなんて・・・・・」
「人族の世界で、魔王は3000年くらい生きているって情報はなかったのか?」
「いや、あったが・・・・・」
「3000年も生きている魔王相手に、人族が十年やそこら修行した程度で勝てるはずが無いだろう。時々お前たちみたいなのが勝負を挑んでくるんだよな。一体何を考えているんだろうなと、毎回不思議に思ってたぞ」
「そ、そうか・・・・・」
そんなことを言いながら、魔王さんは通路を歩き、私たちを案内する。
「それじゃ~、この部屋で待っていてくれるか?」
「ここは?」
「食事をする部屋だ。食事を持っているから、椅子に座って待っていてくれ」
「わかった」
「食事はもうできているんだ。持ってくるだけだからそんなに時間はかからない」
それを聞いて、サクヤちゃんが驚いた。
「え? 食事できてるの? 4人分なのに?」
「お前たちがこっちに向かって来る気配はわかっていたからな。一緒に食事をしようと思って料理の準備をしていたんだよ。ま~、すぐに持ってくるから待っていてくれ」
「・・・・・」
そう言って、魔王さんは奥の部屋に行った。
「私たちは命がけの魔王退治だと思ってやって来たのに、魔王は料理でもてなす準備をして待ってたんだね・・・・・」
「そうだな・・・・・」
2人はあっけに取られていた。