■天候を操る魔王
この世界には「人族」と「魔族」が存在する。
魔族は人族の領土を奪わんと、常に戦闘を仕掛けてくる。人族は魔族から領土を守るため、人族の平和を守るため、戦い続けた。そう、争いが無い平和な世界にするには、魔族を滅ぼすしか方法がないのだ。
魔族の頂点に君臨するのは「魔王」である。
人族は魔王を倒すため、魔王城に１万の兵を向かわせた。、１万の兵を魔王城に向かわせた。しかし、結果は惨めなものだった。魔王城にたどり着くことすら叶わず、兵士たちは絶望に打ちひしがれることになったのだ。
人族による１万の軍勢が魔王城に近づくと、急に空は黒雲に覆われ、大雨が降り始めた。そして、大洪水が発生する。
しかも、立っていることも不可能なほどの強風が吹きあれた。けたたましく雷が鳴り響き始める。それでもなお進軍をつづけようとすると、塀の近くに雷が落ち、木々を切り裂いた。まるで「これ以上近づけば命はないぞ」と言わんばかりに。
この絶望的な状況に、１万の軍勢は撤退するしかなかった。
後日、改めて２万の兵で魔王城を目指した。しかし、前回とまったく同じことが起こってしまい、人族は再び撤退を余儀なくされた。
「まさかここまで天候に邪魔され続けるとは・・・・・」
これでは埒が明かない。人族は５年かけて魔王城周辺の天候を調査した。その結果、この土地は暴風雨が吹き荒れるような場所ではないことが分かった。間違いなく、ここは災害が頻繁に発生するような場所ではない。にもかかわらず、何故二度も悪天候によって進軍を阻まれてしまったのか？
疑問に感じながらも、人族は３度目の正直と言わんばかりに、精鋭５万の軍勢を魔王城に進軍させた。しかし、壮大な暴風雨は三度（みたび）起こり、阻止されてしまったのだ。
人族の進軍に合わせて３度連続の暴風雨が発生した。さすがに、人族も認めざるを得なかった。
「暴風雨を操っているのは、間違いなく魔王だ」
魔王は人族の進軍を確認すると「魔法」を使って妨害している。そう、魔王には「天候を操る魔法」を操っているとしか考えられない。
人族が考えていた以上に、魔王は巨大な強さを持っていたのだ。
「魔王城を大軍で攻め落とすことは不可能だ」
そう判断した人族は、少数精鋭による魔王討伐作戦を実行することにした。
こうして、人族の間に「勇者信仰」が産まれた。勇者こそが、この世界を救う者。勇者が魔王を討つとき、平和は訪れる・・・・・。人々は、世界を救う勇者の到来を待ち望んだ。
そして・・・・・ついに、勇者が現れた。
世界最強と言われる勇者一行は、旅の果てに「神」と出会い、魔王を倒すための「伝説の武器」を託されたのだ。
この知らせは瞬く間に世界中に広がり、人々は熱狂した。ついに魔王を討つ希望が現れたのだ。誰もが、世界に平和が訪れることを信じた。
そして、その国の王は勇者一行に正式に「魔王討伐」の命を下した
■魔王城に向かう勇者一行
私たち勇者一行は、「剣士のシュート君」「魔法使いのサクヤちゃん」そして「弓使いの私（モコモコ）」の三人パーティーだ。王様の命を受け、魔王を倒すために魔王城へと向かっている。
ちなみに、私の本当の名前は「モコ」なんだけど、なぜかみんなから「モコモコ」と言われている。・・・・・なんでだろう？
「魔王城」は人族領と魔族領との境界線上にある。城は小高い崖の上に建っており、目の前には海が広がっている。城に向かうには急こう配の道を登っていくしかない。周囲には森が広がっており、森の中には凶暴な魔物が沢山いるため、望んで入る者はいない。
私たちは魔王城に向かう坂道を登りながら、背後に広がる光景を見渡す。
「こうして見ると不思議な光景だな・・・・・。森をはさんでこちら側に人族の村があり、反対側には魔族の村が見える。森の中に住む魔物たちは森から出て人を襲うことは無いと言うし・・・・・」
「魔王城周辺が世界で一番平和だと村の人たちが言ってたね」
そう、この村の近くには、魔王がいるて、魔族がいて、魔物がいる。なのに、この村の人たちは平穏な生活を送ることができている。それどころか、驚いたことにこの村の人たちは魔王を信仰していた。
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【村での出来事の回想】
私たちが村の中に入ってくると、村人たちが怪訝そうな表情で集まってきた。
「何か用かい、お前さんがた」
明らかに敵意むき出しだった。
「俺たちは魔王を倒すためにやってきたんです。この村は魔王城からとても近いため、話を聞かせていただきたいのですが」
それを聞くと、「またか」と言わんばかりに呆れ顔だ。
「見ての通り、この村は平和にやっている。救ってもらいたいことなど何もありゃせんよ」
「し、しかし、あんな近くに魔王城があるんですよ？ それなのに何もないのですか？ 王様たちからは『この村は魔王に支配されている』と聞きましたよ？」
シュート君がそう聞くと、村人たちは怒ったようにこう言った。
「確かに、ワシらは魔王に税を納めておる」
「やはり・・・・・」
「違う。ワシらは望んで魔王様に税を支払っておるんじゃ」
「え？」
「お前は王国から来たんじゃろ？ 王様が国民からいくら税をとっておるか知っておるか？ 50％じゃ。ワシらの稼ぎの半分を持っていきおる。ワシらが必死になって稼いだ財産をじゃ。それでいて、王様がワシらに何をしてくれる？ 何もせん。ただただ、自分たちの私腹を肥やすことだけしか考えておらんのじゃ」
シュート君は言葉が出ない。
「しかしな、魔王様はワシらから税をとったりはしない。ワシの爺様が言っておった。建物を立派にし、住みよい村にしてくれたのは魔王様じゃと。魔王様がいるおかげで、魔族も魔物も襲ってはこない。あの方こそが、この世界の王になるべきお方なんじゃよ」
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「なんだか、私たちが悪ものみたいな目で見られちゃったね」
「ああ、そうだな・・・・・」
村の人たちは魔王を好意的に見ていた。私たちが考えていた魔王のイメージとはかけはなれていた。
「だが、俺たちは世界中を旅して、魔族がどういう存在かを知っている。村や町は破壊され、多くの人が殺されている。女、子供、老人も関係なくだ。そんな残虐非道な魔族の頂点に君臨するのが魔王だ」
「そうだね。ここの人たちはわけあって特別扱いしてもらっているのかもしれないね。モコモコちゃんはどう思う？」
ずっと黙っている私に、サクヤちゃんが聞いてきた。
「私は・・・・・」
どう答えればいいかわからない。
・・・・・いや、違う。私は今置かれている状況にとても混乱していた。魔王城に近づくにつれ、言葉では言い表せない不思議な感覚が、私の中で渦巻いていた。
「もしかして、体調が悪いんですか？ それなら日を改めて・・・・・」
「ううん、違うの。大丈夫」
「本当に大丈夫？」
「うん、大丈夫よ。魔王城が目の前で、ちょっと緊張しちゃっただけ」
「それならいいんだけど・・・・・」
そう、魔王城は目の前だ。私たちの旅の終着地点。今から私たちは、命を懸けた戦いをしなければいけない。
「どのみち、今回の戦いで魔王を倒そうだなんて思っていない。まずは魔王がどういう奴なのか確認してみないことにはな。話はそれからだ」
シュート君が言う通り、今回の作戦は魔王を倒すことじゃない。魔王と距離を置いて戦い、魔王がどういう強さなのかを調べることが目的だ。その後は魔王城から逃亡、国に戻り、作戦を立て直し、改めて戦いに挑む、ということにしている。
「相手は三千年以上生きている魔王か・・・・・。５万の軍勢を天候を操る魔法で撤退させる能力もあるし、想像もつかない強さだね」
「ああ、だからこそ、今回の作戦は生きて逃げ帰ることが先決だ。俺たちが魔王を倒すには、まずは情報だ」
シュート君はいつも冷静で的確な判断をしてくれる。シュート君の判断に任せていれば大丈夫。
「私とサクヤちゃんが弓と魔法で援護するから、シュート君は無理して前に出すぎないでね」
「うんうん、そうそう」
「ああ、大きく前に出るつもりは無い。この盾でしっかりと守りを固めるから、二人は危ないと思ったら俺の背後に回ってくれよ」
そう言って、シュート君は笑った。
そして、いよいよ私たちは魔王城の扉の前にたどりついた。
