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■■ 天元に住む「魔王」と「女神」
「天元」――そこは世界の中心に位置し、神々のみが住まう天上の領域。
雲よりもさらに高くに存在するその領域には、地上に住まう人族や魔族の力をもってしてもたどり着くことはできない。
そこには、「魔王」と「女神」の二人だけが暮らしている。
「魔王」は、あらゆる理を司る全知全能の存在だ。この世界も、生きとし生けるものも、すべては魔王によって生み出されたものだ。
そして、「女神」は魔王が創り出した娘のような存在である。魔王は女神に知識と力を与え、立派な神になれるよう教育を行った。世界の仕組みから、生命、魔法に至るまで、幅広い知識を与えている。
しかし。女神は自由奔放な性格であった。興味の向くまま、自由気ままに過ごしているため、勉強熱心とは言い難い。
魔王はそんな女神の気質を咎めることもなく、むしろ彼女の生き方を尊重していた。
物語は、そんな二人が「思いも寄らぬ来訪者」の存在を知ったところから始まる。
「魔王様、紅茶をお持ちいたしました」
「ああ、すまないな」
庭で本を読んでいた魔王に、女神は紅茶を持ってきた。
魔王は手に取り、香りを一口吸い込む。そして、満足げに目を細めた。
「ふむ・・・・・腕を上げたな。以前とは違う良い香りがする」
「わかりますか? 森の奥に見慣れない綺麗なお花が咲いていたので使ってみたんですよ」
「そうか」
女神は美味しそうに飲む魔王を、嬉しそうに見つめる。
いつもの穏やかな時間、たわいもない会話を交わしていたその時、魔王の表情がわずかに変わった。
「ほう・・・・・」
「どうなさいましたか、魔王様?」
「珍しい来訪者だ。異世界からこの世界にやってきた者が二人いる」
「まぁ!」
女神の顔がぱっと明るくなる。
「魔王様が以前お話しされていた『転移者』と『転生者』のことですね! この世界もそこまで成熟したんですね!」
「ああ。転移者や転生者が現れるということは、セカイが一定の段階に到達した証だ。このセカイも千年を迎え、ようやくその域に達したということだな」
この世界は生まれて1000年ほどしかたっていない「若い世界」だ。転移者や転生者がやってきたということは、それを生み出した魔王にとっても喜ばしい事態である。
しかし・・・・・魔王には少々気がかりなこともあった。いや、それは後回しだ。魔王は考えるのをやめ、女神に指示を出す。
「私は転移者を対応するとしよう。女神、お前は転生者の方を頼めるか」
「何をすればよろしいのでしょうか?」
「まずは転生者の記憶を与える」
魔王は女神の額へと手をかざし、転生者の記憶を直接送り込んだ。
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【転生者ムスイの最期の記憶】
・その男はパソコンを使いインターネットで囲碁を打っていた。
・負け続けており、イライラしていた。
・負けすぎで「三段」から二階級降格し「初段」になった。
・怒りが爆発し、パソコン画面をぶん殴った。
・「グギギギギ!」と奇声を上げながら感電し、死亡した。
・死に顔も姿勢も、目を覆いたくなるほどに無様だった。
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女神は目を開けると、そっと眉を寄せた。
「このような理由で亡くなられたのですね・・・・・お気の毒に」
「うむ。しかし、これではあまりに品がない」
魔王が手をかざすと、空間がゆがみ、死んでいるムスイの姿が画面に表示された。そして、魔王はムスイに魔法をかける。すると、無様な顔で死んでしまっているムスイの表情はみるみると穏やかな姿へと変わっていく。ムスイの遺体は安らかに横たわり、パソコンも綺麗に直ってしまった。
「これで死因は心臓麻痺として処理されるだろう。人としての尊厳も守られよう」
「魔王様はお優しいですね」
女神は素直に感心する。
「この男の名はムスイという。いきなりの転生で混乱しているだろう。まずは状況を説明してやれ。そして、この世界で何をすべきか考えるよう伝えてくるんだ」
「はい、承知いたしました」
女神はその場から消え、ムスイがいる「精神体の世界」へと向かった。
■■ 自分の死を受け入れられないムスイ
ムスイは霧深い空間の中で目を覚ました。あたりは白く霞み、ここがどこなのかまったく判別できない。
「こ、ここは・・・・・? さっきまで自分の部屋でネット囲碁をしていたはずなんだけど・・・・・」
混乱しながら周囲を見回していると、目の前で急に光の粒が集まり始める。
「うを!!」
ムスイは驚いて後ろに飛びのき尻もちをつく。
怯えながら見つめていると、その集まった光の中から、美しい女性が現れた。
「初めまして、ムスイさん」
「あ、あなたは・・・・・?」
「私は女神。悲しくも亡くなってしまったあなたを、新たな世界へ導くためにここへ参りました」
ムスイはあっけにとられた。その言葉の意味を理解できなかったからだ。そして、冷静になって思う。「この人、何を言っているのだろう?」と。ムスイは首を傾げつつ、女神を名乗るその人物に言った。
「え? 私が死んだ? 何を言っているんですか? 死んでませんよ?」
「信じられないかもしれませんが、あなたはパソコン画面を殴って感電し、死んで・・・・・」
「いやいやいや、今、私はここで生きているじゃないですか。何、意味のわからんことを言ってるんですか。女神さんでしたっけ? 落ち着いてください。冷静になって下さい。だいたい・・・・・って、あれ? ほっぺをつねっても痛くない!?」
ムスイは「フヌー! フヌー!」と訳のわからない掛け声とともに頬の肉をつまんで引っ張る。しかし、まったく痛くない。
女神は苦笑いを浮かべつつ、話をつづけた。
「そうです。今のあなたは精神体になっていますので・・・・・」
ムスイは説明をする女神の言葉をさえぎった。
「ああ、そうか。これは夢だ! 夢だから痛くないんだわ、きっと。ああ、そうだそうだ、囲碁を打った後に布団に入って寝た記憶がある! 間違いない! これは夢だ!」
ムスイは一人で納得のいく答えにたどりついた。
そんなムスイを見て女神様は動揺している。
「ム、ムスイさん、落ち着いてください。まずは話を・・・・・」
「ええい! 何が話しだ! 何が死んだだ! このペテン師め!」
「ぺ、ペテン師!?」
いきなりの罵倒に、女神は一歩あとずさり、目を丸くする。
「新手の詐欺を仕掛けているつもりだろうが、そうはいかんぞ! その程度の口車で私の口座からお金を引き出せると思ったら大間違いだ!! とっとと失せろ!! このボ●ナスが~!!」
(シュン!)←ムスイ、強制転生
女神は顔を背けながら、手をかざし、ムスイを強制的に転生させてしまった。本当は色々と説明したかったのだが・・・・・。これ以上、女神は耐えることができなかったのだ。
■■ 魔王、静かに怒る ■■
天元へ戻った女神はしょんぼりと肩を落としていた。
「た、ただいま戻りました・・・・・」
魔王は転移者の対応を終え、先に戻っていた。
魔王には女神が短期間でかなりやつれたように見えたそうな。
「・・・・・大変だったようだな」
「はい・・・・・本当に・・・・・」
魔王は女神の額に手をかざし、彼女が見聞きしたすべてを読み取った。
「・・・・・なるほど。こういう奴だったか」
魔王は、ムスイの遺体映像を再び映し出した。先ほどとは違い、魔王の表情にわずかな怒りが宿っている。
そして・・・・・
魔王は健やかに死んでいるムスイを全裸にした。顔とお腹に変顔のペイントをした。酒瓶を両手に握らせた。壁にもたれかかるように逆さにして、脚全開のチ●コ丸出しポーズにした。それはもう、目を背けるしかないほどに無様な光景であった。
「こうしておけば、変態芸の練習をしている最中、アルコール中毒で急死したと判断されることだろう」
「あらあら、まぁまぁ」
女神は特に魔王を責めたりはしなかったという。
魔王は異世界で生まれたばかりのムスイの方へと画面を切り替える。
「ふうむ、コイツが転生者のムスイだな。・・・・・む?」
魔王はムスイの姿を見つめ、ある“異変”に気づいた。
「どうかされましたか、魔王様?」
「こいつは・・・・・」
魔王はムスイを見て、何かに気づいた。
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あとがき
皆さん、こんにちは。ムスイです。はじめましての方も、そうでない方も、どうぞよろしくお願いいたします。
ちょっと読者さんが引っかかっているかもしれないと思いましたので、補足を入れたいと思います。
作中に「魔王が紅茶を飲む話し」がありますが、勘のいい方は「なんかおかしい」と思ったと思います。森で咲いていたお花を紅茶にいれるだなんてね~。そんなことする人がいるかって話ですよ。
実は「魔王と女神は何でもおいしく食べることができる口を持っている」という設定になっています。ですから、例え泥水が出てきたとしても、魔王は美味しいと言って飲んでくれるんです。そういった理由から、適当な花を飲み物に使っても問題ないということになります。
かなり後のストーリーで、主人公が魔王と女神さまのお茶会に招待されるという話があります。以下、こんな感じです。
「ブーーーッ! 何ですか、これは! メチャクチャ不味いじゃ無いですか!」
「おい、ムスイ、やめろ。いらぬことを言うな」
「いやいやいや、だってこれ、壮絶に不味いですよ? いや、不味いを通り越して普通に死ねますよ! 私だったから死ななかったというだけでして、普通の人だったら即死するレベルでしたよ! なんてもの出すんですか! 女神様!」
「黙れ、馬鹿者。お前は笑顔で『美味しい美味しい』と言いながら飲んでいればいいんだ。その後、腹痛で三日三晩生死の境をさまようことになるが、何とか一命をとりとめることができる。看病をしてくれていたモコモコとの愛もさらに深まることになるだろう。だから安心しろ」
「ムチャクチャ言うな~、この人!?」
それを黙って聞いていた女神が笑顔で静かにブチ切れる、という展開になります。ああ、これ外伝で使う予定でしたね。
基本的に、魔王と女神がやっていることは、「女神主体の人間ごっこ」であり、「おままごと」でしかありません。魔王が女神のおままごとに全力で付き合ってあげているということですね。ですから、2人がやっている行動にはさほど意味はありません。人基準で言えばかなりアホなことを真面目にやっていたりもします。魔王と女神はそういう世界観です。
「作品の設定」に関しては「ムスイ道」という記事にて時々書いています。作品内容を分かりやすく読みたいという方は参考にしてください。
「ムスイ道01」などで検索してくれれば記事にたどりつけます。一応、アドレスも載せておきます。
■ムスイ道(作品の設定)
リンク
今回の一曲
毎回「アニソン」を一曲ずつ紹介していきます。
趣味です。特に深い意味はありません。
今回はアニメ「逆転裁判」のED曲。
実は本作品の最終話あたりと歌詞の一部がマッチしているため
イメージを膨らませるためによく脳内再生していたりします。
■曲名:Message
■歌手:安田レイ
(全曲)
https://www.youtube.com/watch?v=cRLsJvuGPjA
(ED曲)
https://www.youtube.com/watch?v=JVVgGQ28Pno
(歌詞)
https://www.uta-net.com/song/208200/
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