■魔王とモコモコの取引
シュート君とサクヤちゃんは必ず守る。そう思って戦いに挑んでいた。しかし、あっけなく2人は殺されてしまった。まさか逃げることもできずに負けてしまうだなんて・・・・・。私たちの考えは甘かったのだ。一人ではもう何もできない。私はその場に座り込んだ。
魔王が私の元に近づいて来る。恐怖は無かった。むしろ、はやくシュート君とサクヤちゃんの元に行きたいとさえ思っていた。
魔王を見ていると、異変に気付いた。最初、魔王はスライムの様なかたまりをしていたけど、私に近づくにつれ、だんだん人の形になっていった。そして、完全に人の形になった。私はその人を見て思う。
(私、この人と会ったことがある・・・・・)
一体、どこで会ったのだろうか? そして、この人は一体誰だっただろうか? 思い出すことができない。だけど、とても懐かしく、温かい存在であることはハッキリとわかる。
(この人は私にとってとても大切な人だったような気がするんだけど・・・・・)
魔王は私の眼の前までやってきた。その姿を見ていると「この人に殺されるなら」という不思議な気分になった。
でも、魔王は意外な行動をとった。私の前で膝をつき、私に話しかけてきたのだ。
「久しぶりだね、モコモコ。私を覚えているかい?」
「・・・・・え?」
私は驚いた。いままで何度も魔族と戦ってきた。しかし、魔族は人族の言葉などわからない。もちろん、会話などできるはずがない。にもかかわらず、目の前にいる魔王は「人族の言葉」で私に話しかけてきたのだ。
魔王だからできるということだろうか? それよりも「私を覚えているかい?」ってどういう意味だろうか? どうして私の名前を知っているのだろうか? どうしてこんなにも嬉しい気持ちになれるのだろうか? それに・・・・・どうして私は泣いているのだろうか?
私は魔王を見つめながら、涙を流しながら、震える手を魔王に向けて前に出す。
魔王はそんな私を優しく抱きしめてくれた。温かい。それに、とても落ち着く。こんなに安らかで幸せな気持ちになれたのは初めてだ・・・・・。いや、違う。昔、こうして抱きしめられたことがあるような・・・・・。そして、とてもとても幸せだったような・・・・・。そんな不思議な感覚となった。
気が付くと、魔王が私を抱きしめたまま震えている。魔王の顔を見ると、涙を流していた。どうして、泣いているんだろう。どうして悲しそうな魔王を見て私が悲しくなるのだろう。私は悲しんでいる魔王を慰めるように、包み込むように、抱きしめた。
そして、意味も分からず二人で抱きしめあいながら泣き続けた。
しばらくして、魔王は私から離れる。そして、とてもまじめな表情で私に話しをし始めた。
「モコモコ、私と取引してくれないか」
「取引?」
「シュートとサクヤは、球体に閉じ込めているだけで生きている。あの2人を助けよう。これから私は人族に危害をあたえるようなことはしないと約束しよう。その代わりとして、私は君の全てが欲しい」
「・・・・・私の命の代わりに、2人は逃がす、ということですか?」
「そうだ」
「私は、死ぬんですか?」
「死ぬことは無い。だが、永遠に私のそばにいてもらう」
「・・・・・」
元々、この世界を救うために私たちはここに来た。私一人の犠牲でこの世界が救われるなら。シュートくんとサクヤちゃんも助かるなら。それなら、何も躊躇うことは無いと思えた。それに・・・・・。
「わかりました。それで取引します」
「・・・・・うん」
魔王さんは懐から何かを出した。「指輪」だった。
「モコモコ、左手を出して」
「はい」
魔王さんはそれを私の左手薬指にはめた。
「結婚指輪、ですか?」
「取引の証だよ」
魔王さんは悲しそうな表情でそう言った。
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