私(モコモコ)が村のお手伝いとして「牢屋」を掃除しに行った時の話し。
ここは犯罪なんて起こったことが無い平和な村。だから、この牢屋は一度も使われたことが無いと聞いている。なんだか不気味で、子供のころから一度も近づいたことが無い。私が中に入ったのもその日が初めてだった。
だけど・・・・・牢屋の中に入ると、何度か中に入ったことがあるような気がする。不思議と中の光景に見覚えがある。
気にしないようにと思いつつ、牢屋の中を掃除していると・・・・・何か視線を感じるような気がする・・・・・。何だろう・・・・・? 私は周囲を見わたす。
(鉄格子の中に・・・・・誰かいる?)
私は薄暗い鉄格子の中を、眼を細くして凝視してみた。すると・・・・・、そこに誰かがいるような、うずくまっているような「黒い影」がいることに気が付いた。その「黒い影」は私がここに来るのを待っていたかのような、そして嬉しそうな、とても薄気味の悪い表情で私を見ている・・・・・。
私は怖くなって牢屋から逃げ出した。そして、走っておじいちゃん、おばあちゃんの元へ行き、このことを告げた。
今度は3人で牢屋にやってきた。覗いてみたけど誰もいない。牢屋の鉄格子の中はホコリだらけで、中に誰かが入った形跡もない。「気のせいだろう」と言われたけど、私にはそうは思えなかった。
その日から、私は変な夢にうなされるようになった。
・お花畑で編み物をしていると「黒い影」が襲い掛かってくる
・夜、「黒い影」に追いかけまわされる
・そして、最後には私に抱き着いてきて、ほっぺにスリスリしてくる
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「おじいちゃんとおばあちゃんに夢のことを話したら「それは牢獄の悪魔だろう」って。牢屋とかには怖い怨念が溜まっていることがある。だから、牢屋に行くと変な悪夢にうなされてしまうことがあるんだって。牢屋に近づかなければ夢は見なくなるよって言われたんだけど・・・・・、ムスイはどう思う?」
「・・・・・・・・・・」
ムスイは黙って眼をつむり天を仰ぐ。今の話は全て、前の生の時にムスイがモコモコに対してやったことだ。なんにしても、心当たりがありすぎて辛い。
「そ、そんなのはただの悪い夢だよ。たぶん、モコモコが本能的に”牢屋は怖い”と思っていて、それで怖いイメージがどんどん膨れ上がってきて、夢を見ちゃったんじゃないかな。おじいちゃんとおばあちゃんが言っていることが正しい。牢屋に近づかないようにして、気にしないようにすればまったくもって大丈夫だよ。」
ムスイはもっともらしいことを言って、忘れるように促す。
「それが・・・・・、なんだかもう少しでその”牢獄の悪魔”が誰だかわかりそうな気がするの。なんだかとても身近な人の様な・・・・・。」
モコモコは一生懸命思い出そうとしている。
「ムスイに話してたらどんどんイメージが鮮明になってきたというか・・・・・、もう少しで”牢獄の悪魔”の顔がわかりそうな・・・・・ペラっともう一枚めくれば顔がハッキリとわかってきそうな・・・・・」
(ペラッ、ペラッとめくれて判明しそうになる誰かの顔)
「!!!!!!! お、落ち着いて! 落ち着いて、モコモコ! 牢獄の悪魔の正体が分かったって何のメリットも無い! トラウマになるだけだよ!」
目ん玉飛び出して必死に主張するムスイ。モコモコの肩をつかみブンブン揺さぶる。忘れさせようと必死だ。
「だ、大丈夫! どんな時でもボクが命がけでモコモコを守るから大丈夫! 何も心配せずに忘れてしまっていいんだよ!」
そういって、ムスイはモコモコに抱き着き、顔にスリスリする。
そんなムスイを見て、モコモコは思う。
(ムスイにこんなに大事にしてもらえて、私は幸せ者だな~)
抱きしめてくるムスイに眼をつむって寄り添い、背中をポンポンと叩きながら、そんなことを考えるモコモコであった。
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あとがき
(25/01/05)みなさんこんにちは、原作者のムスイです。
「村の設定」に関して少し話をしておきます。作中では細々しいことは語っていませんが、以下のような設定になっています。
①現在、ムスイは「村長代理」になっています。村長は村長の座を譲りたいのですが、ムスイが断ったため、押し問答の結果「村長代理」という位置づけになっています。そのため、村の仕事は全てムスイが中心となって行われるようになりました。
③アンス村は農業で生活しています。「畑で取れた野菜」「森に植えている果物」を収穫し、それを複数の村や町に持って行って売っています。とは言っても、町の人たちが運搬と販売をやっているため、村の人たちがやるのは収穫までです。
③森にいる動物を狩って肉を食べることもあります。ムスイは森の開拓もおこなっているため、動物にとっても住みやすいものになっており、結構な数がいます。そうなると「畑が動物に荒らされる」という問題が発生するのですが、そこまでこまごま考えているときりが無いと割り切っています(笑。