第11話目次第12.5話

シュートとサクヤがギルドの依頼を受けるために町に向かう日、ムスイも一緒に同行した。町で情報収集したいと考えていたからだ。

「いってらっしゃ~い」

モコモコは村でお留守番。

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町へやってきて、ギルドへと向かう。

シュートとサクヤは掲示板で戦闘関連の依頼を探している。

私は「情報収集」が目的であるため、まずはどこで情報収集できるかを調べなければいけない。異世界にやってきて3度目の生を送っているが、まだこの世界のことは知らないことだらけだからな。

とりあえず、受付さんに聞いてみた。

「こんにちは、受付さん」
「あら、ムスイ君、お久しぶりね。ギルドの依頼を受けに来たの?」
「いえ、実は魔法やこの世界の歴史などを勉強したいと思って町に来たんですよ。しかし、どうやって情報収集すればいいのかわかりません。何か良い方法は無いかと思いここに来たんですよ。受付さん、何か良い方法はありませんか?」「情報ね・・・・・。それだったら、図書館に行くといいわよ」
「図書館があるんですか」
「ええ、この町に貴族が通う学園があるんだけど、その学園が図書館を一般にも公開しているのよ。ただ、入場料を取られるから誰も行かないんだけどね。」
「なるほど・・・・・、わかりました。ありがとうございます」

ムスイは図書館へと向かった。

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なるほど、ここが貴族様が通う学園か。立派な建物だ。入口近くのあの建物が図書館なのだろう。

受付にお金を払い、ムスイは図書館の中へ。おお・・・・・本がたくさんある。なるほど、勉強にはなりそうだ。しかし・・・・・こんなにたくさんの本があっては何を読めばいいのかがわからない。なにより、こんなにたくさんの本を読んでいる暇だってない。情報は欲しいが・・・・・困ったな・・・・・。

周囲を見渡すと、熱心に本を読んで勉強している人物がいた。ムスイはその人物に声をかける。

「あの、すみません、ちょっといいですか?」
「え? は、はい。なんでしょう?」

ムスイは周囲を見渡す。ここは図書館だ。あまり会話はできない。込み入った話もあるし、ここで会話するのはまずい。

「あの、お手数ですが、外にでてお話しできませんか?」
「・・・・・え? は、はい・・・・・わかりました・・・・・」

その人物はそそくさと本を本棚に直し、ムスイについて来る。いきなり知らない人物に声をかけられドギマギしているようだ。

公園の噴水の前まで来て、ムスイは話しかける。

「初めまして、私はムスイという者です。実は魔法やこの世界のことに関して情報を得たいと思っているのですが、本が山のようにあり、どのように調べればいいのかもわからず困ってしまいまして。そんな時、あなたが熱心に本を読んでいるのを見かけまして。失礼ですが、あなたはあの学園の学生さんですか?」
「いえ、違います。元々はそうだったのですが・・・・・、やめたんです。特別に出入りを許していただけているのであそこで勉強しています。あ、名前はセーナと言います。」

なるほど、元学生で、何らかの事情で辞めたが、いまでも熱心に勉強を続けている、ということか。変に学生を相手にするよりも良いかもしれない。

「それでは、私の願いを聞き入れていただけませんか? 魔法やこの世界のことを色々と教えていただきたいんです。もちろん、知っている範囲で構いませんし、お礼もします」

そういって私はセーナの手を握った。そして、手の中にお金を入れた。

「え、ええ、こんなに? 受け取れません」
「いえいえ、こちらは教えてもらう身です。前金とでも思って、どうか受け取ってください」

そういってセーナの手をギュッと握り、お金を離せないようにした。

「し・・・・・」
「いえいえ、ぜひお願いします。本当に困っているんです。どうか、どうか」

そういって頭を下げる。拝み倒し作戦だ。

「・・・・・そ、そういうことでしたら」

セーナはムスイのお願いを聞き入れてくれることになった。

「それでは、どこか食事ができるところでお話しませんか?」
「え? で、でもその・・・・・」

セーナはなにか言いにくそうな表情だ。

「そ、その・・・・・私、嫌な臭いがしますよね・・・・・。ですから、建物の中で長く一緒にいるのは・・・・・」

臭い? 私はセーナの臭いに集中してみた。・・・・・なるほど、下水のようなにおいがする。学生では無いと言っていたな。下水関連で働いているのか?

私は気にはならないが、本人が気にしているのなら仕方がない。

「なら、まずは服屋にでも行きましょう」
「え? 服?」

ムスイはセーナの腕を引っ張って服を打っている店に入る。そして、「学生が着そうな服」を適当に選んだ。後、「香水」と「カバン」も買った。

「それじゃぁ、この服に着替えて。」
「え、で、でも・・・・・」
「いいからいいから、中に入って。臭いが気になるなら香水を使って。今着ている服はこのかばんの中に入れて」

そう言って、セーナを試着室の中に。しばらくすると、着替えたセーナが出てきた。

「ど、どうでしょうか・・・・・」
「うんうん、とても似合っているよ」
(性別のわからないムスイにはよくわかっていない)
「あ、ありがとうございます・・・・・(ポッ」

それじゃあ、食事をしながら話を聞かせてもらうことにしよう。

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セーナは魔法について説明を始める。

「「魔法」というのは魔法使いが使う呪文攻撃です。体内にある魔力で炎を出現させ、敵を攻撃する呪文になります。射程は人によりますが、10mほどが一般的です。強い魔法使いほど遠くに攻撃することができます。しかし、その分、魔力の消費が大きくなりますので、魔力切れを起こしてしまいます。魔法使いの強さは、魔力量がどれくらいあるか、ということが重要になってきます。」

う~む・・・・・、サクヤは50mほど先の鳥を倒していたが・・・・・。

「魔法で50m先を攻撃することはできないのか?」
「そこまでとなりますと、まずいません。仮にいるとしたら世界でもトップクラスの魔法使いかと。私の知る限りでは不可能です。」
「もしかして、セーナは魔法が使えるとか?」

セーナは少し暗い顔をした。いらんことを聞いたのだろうか。

「は、はい・・・・・。魔法が使えます。実は私は元貴族だったんです。両親の事業が失敗し、心労で父と母も亡くなり、財産もほとんどありません。それで、学園を辞めることになりました・・・・・。」
「そ、そうだったのか。すまない。嫌な質問をしてしまったね。」
「いえ、いいんです。魔法がどういったものかみたいのであれば、後で魔法をお見せしましょうか?」
「そうしてもらえるなら助かる」
「ええ、わかりました」

魔法学院に通っていたのであれば、情報も確実だろう。予想以上に良い情報を得られそうだ。

「それで、炎以外ではどんな魔法があるんだ? 氷とか、風とか、雷とかの魔法とかもセーナは使えるのか?」
「え? いえ、魔法とは炎のことです。そういった魔法はありません」
「・・・・・氷魔法とか、無い? 風魔法も?」
「はい、魔法は炎だけです」

サクヤとシュートもそう言っていたが、やはりそうだったのか。魔法は炎系しかないようだ。

「魔法には3つの重要な要素があります。一つ目が魔力。魔力は誰にでもあるのですが、魔力量が多く、それをコントロールする必要があります。それができる者が魔法使いと言われる存在です。二つ目が杖。杖は魔力増幅装置とされています。無くても魔法は使えますが、威力は下がります。三つ目が呪文。ファイヤーという呪文を唱えることで魔法が発動します。この3つがそろって攻撃魔法となります。」

サクヤは呪文は無いと言っていたな。あいつの魔法は間違っているんじゃないか?

「ファイヤーと言わずに魔法を発動することは可能なのか?」
「それは無理です。わかりやすく例えますと、魔力は火を燃やすための燃料、杖はより強力に燃やすための増幅装置、そして呪文は着火です。呪文で火をつけるから攻撃魔法になります。そのため、呪文を使わない限り攻撃魔法にはならないんです。」

決まりだな。サクヤがやっているのは正当な魔法じゃない。魔力を使ってはいるが、我流の何かだ。

「仲間の剣士や弓使いの攻撃力をアップさせたり、防御力をアップさせたりするような魔法は無いのか?」
「ありません」
「・・・・・ないのか?」
「はい、そのような話は見たことも聞いたこともありません。もちろん、魔法に関するいろいろな研究がなされていて、今後、いろいろな魔法が登場してくる可能性はありますが、現時点ではそういった話しは聞きません。」

う~む・・・・・サクヤが使っていた魔法は何だったのだろうか?

「・・・・・もしかして、そのような魔法が実在するのですか?」
「いや、そういった魔法があれば便利だなと思って。なるほど、ありがとう。勉強になったよ。すまないが、今から君の魔法を見せてくれないか? 魔法がどういったものなのか見てみたいんだ。」
「わかりました。では、家に戻って杖をとってきますね。」

そういってセーナは立ち上がる。

「あ・・・・・服とカバン、香水、お金もありがとうございます」
「いや、大したことないよ。それじゃ、町の出口でまってるから。」

セーナはペコリと頭を下げると家に戻っていった。

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村の出口で待っていると、セーナが杖を持って駆けつける。

「お待たせしました」
「いや、それじゃ~行こうか」

そういって森の方へと歩く。確かサクヤには七面鳥を攻撃してもらったな。セーナにも鳥を攻撃してもらおうか。

お、いいところに七面鳥がいた。

「それじゃ~、あの七面鳥を魔法でしとめてくれないか」
「それは難しいですね・・・・・。やってみます。」

難しいのか。どうやるんだろう。

セーナはゆっくりと七面鳥の背後に回り込んだ。そして、ソロリ、ソロリと七面鳥に近づき・・・・・

「ファイヤー!」

鳥は人間の声に驚き飛び去る。遅れて魔法攻撃が飛んでくるも、七面鳥には届かなかった。

「残念。やはり駄目でした。」
「・・・・・あれが魔法、ですか?」
「はい、魔法は呪文を発するため、隠れて攻撃することには向きません。七面鳥を狩るなら弓の方が当たると思います。」

なるほど・・・・・これが本当の魔法だとするなら、魔法使いってまったく役に立たないのではないか?

「魔法使いはパーティーでどういった役割をするものなんだ?」
「魔法使いは攻撃系の盾のようなものです。魔物が襲ってきた時、魔法使いがファイヤーで攻撃します。そうすると、魔物は炎のダメージを受けますし、攻撃が止まってしまいます。そのスキをついて剣士が斬りつけて倒すというのが一般的な戦闘スタイルになってきますね。ギルドで一番のパーティーであるシュートさんとサクヤさんもそのように戦っていると思いますよ。」

ぜんぜんそのように戦っていないが、とにかく魔法使いがどういうものかはよくわかった。

「ありがとう。知らないことばかりでとても勉強になったよ。」
「い、いえ・・・・・そんな・・・・・」

そして2人は町へと戻る。

「それじゃぁ、これが今日のお礼ね」

ムスイが渡した額はセーナの一年分の稼ぎだった。セーナは何かを言いたそうだったが、ムスイは手で口を覆い、言わせなかった。

「セーナはよく図書館で勉強しているのかい?」
「はい、だいたい毎日来ています」
「そうか・・・・・、それなら月に一回会いに行くんで、情報を提供してくれないかな? もちろんお金は払うよ。」
「は、はい・・・・・よろこんで」

契約は成立だ。これで情報収集を楽にできる。

「それじゃ~、また」
「今日はありがとうございました」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だよ」

そんなことを言いながら別れた。

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