■【ムスイ12歳】魔狼が村の近くに
家畜が襲われた。
ヤギが一頭殺されてしまったのだ。
足跡から察するに、魔狼だ。
「た、大変じゃ! はやくみんなに知らせないと!」
魔狼は人を襲うこともある。
ほおっておくわけにはいかない。
男たちは村長の家に集まり、今後どうするかが話し合われた。
「村に魔物が現れてしもうた・・・・・」
「足跡を見たが、魔狼一匹じゃ。
集団で無かったのがせめてもの救いじゃが・・・・・」
「ワシらの豊かな生活ももう終わりじゃな・・・・・」
私は「豊かだったかな?」と思ったが、それはツッコまなかった。
「あの、少し離れたところに街があるんですよね?
そこにギルドがあるようですが
冒険者に退治依頼を出せばいいのではないですか?」
それを聞いて、村のみんなは「もっともだな」とうなづいた。
「うむ、それがセオリーではあるんじゃがな」
「いかんせん、村には金がないのじゃよ、ムスイくん」
「お金ですか。幾らくらいかかるんですか?」
「魔狼1匹なら、金貨20枚といったところじゃろう」
日本円で20万円と言ったところか。
「・・・・・え? あ、あの、
それくらいなら皆で出し合えば払えるのでは?」
「ムスイ君には話していないが、
村のみんなは長年借金をしながらギリギリ食いつないできたんじゃよ。
稼いだお金はほとんど借金返済にあてている。
そのため、村皆のお金をかき集めても金貨2分にはならんのじゃ」
「こ、この村はそんなに貧乏だったのですか・・・・・」
「全てを知れば、ムスイ君がドン引きするくらいに貧乏なんじゃよ」
とんでもないな。
いや、でも父さんは街で武器を売っている。
金貨20枚くらい持っているはずだ。
「父さん?」
「稼いだお金はすぐに使い切っている」
貯金しろよ、ク●ッタレ!
私は頭を抱える。
「そ、それじゃ~、今まで魔物が出現したらどうしてたんですか?」
「みんな家にこもって、魔物様がいなくなるのを待つんじゃ」
「畑の作物は諦めるしかない。ワシらはそうやって生きてきた」
だからこの村は荒れ果てていたのか。
「魔物がこの村に出現したのは20年ぶりなんですよね?
このあたり、魔物は少ないんですか?」
「いや、かなりおるはずじゃ」
「ではどうして20年も村に出現しなかったのですか?」
「この村、ボロボロだったからのう」
「魔物も餌場としては弱いと判断したのかもしれんな」
魔物さえスルーするほど落ちぶれていたのかよ。
「しかしな、数年前からムスイ君が一生懸命頑張ってくるようになった。
おかげで食べるものが増え、ワシらの生活も豊かになった。
その結果、魔物様にとっても魅力的な狩場になった、というわけじゃな」
「そうじゃな。こんなに豊かになってしまってはな」
「うむうむ、魔物もほおっておかんじゃろて」
チラッ、チラッとみんなが私を見ている。
なんか私が悪いかのような話の流れにされてしまった。
「ああ、誰か頼りになる者はおらんかの~」
「日ごろから剣や弓の修行をしている立派な男がいればいいのじゃが」
そして、みんなして私の方をチラッ、チラッと見てくる。
「わ、わかりました。わかりましたよ。
私が魔狼を退治しましょう」
「おお! やってくれるか、ムスイ君!」
「ムスイ君なら必ずやってくれると信じておったぞ!」
最初から私頼みだったのかよ。
困った村人たちだ。
「待ってください、ムスイはまだ12歳なんですよ!」
「父さんも協力してくれれば魔狼くらい倒せるよ」
「いや、父さんは戦闘経験が無いから無理だ」
無理なのかよ。毎日武器作って筋力あるのに。
こうして、私一人で魔狼と戦うことになってしまった。
■ムスイの剣
村長の家から出ると、モコモコが駆け寄ってきた。
「ムスイ、やめて~! 危ないよ~!
私、絶対に離れないから!」
そう言って、なんか必死にしがみついて来る。
どうやら外で話を聞いていたようで、私をいかせたくないようだ。
なんかも~めんどくさかったので、担いだ。
「離して~!(ジタバタ)」
私は父さんに聞く。
「父さん、あの武器、できてるんだろ?」
「アレか~。かなり大きいが、使いこなせるのか?」
「ま~訓練してたし、問題ないよ」
特注で父さんに作ってもらっていた武器。
槍のように長い剣なので、魔狼相手でも有利に戦えると思う。
初めて手にしたとは思えないくらいに手になじんでいる。
これなら何とかなりそうだ。
さすが父さん。素晴らしい腕だ。
私は大人しくなっているモコモコを地面に下ろした。
そして、モコモコの頭をなでる。
「心配しなくても大丈夫。
魔狼の肉を持ち帰ってあげるから、家で大人しく待ってて」
「・・・・・うん」
そして、私は魔狼がいるであろう森の中へと向かった。
■魔狼との戦闘
家畜小屋に残っていた足跡を確認。
魔狼は森の北側に向かって行ったのか。
私は周囲を伺いながら、魔狼の足跡をたどっていく。
私にとって魔物との戦闘は初めてだ。
怖くないと言えばウソになる。
しかし、異世界に来た時からこういう事態は想定していた。
そのための訓練だってやってきた。
今の私なら絶対に勝てるはずだ。
・・・・・いた、魔狼だ。
私は茂みの中に隠れて様子をうかがう。
思ったより大きいな。いや、大きすぎるだろう。
2.5mってところか・・・・・。
「ウ~・・・・・」
魔狼も私に気づいたようだ。
威嚇しながら私の方に一歩一歩と近づいて来る。
距離は20m。
こいつに噛みつかれたら
一撃で骨まで噛み砕かれそうだ・・・・・。
いかんいかん、消極的になるな。
冷静に、冷静にだ。
勝つための策は用意している。
私はクルリと反転し、後ろに走った。
魔狼は逃げたと思い勢いよく追ってくる。
私は一本の木の後ろに回り込み、
ズザザーっと滑り込みながら、体を反転。
剣を握り、力をため、身構える。
木の後ろに回り込んだのは
魔狼が飛び掛かってくる方向を単調化させるためだ。
障害物がある分、攻撃の方向を制限させることができる。
これなら、タイミングを合わせれば、素人の私でもなんとかなるはずだ。
魔狼は左から回り込み、飛び掛かってきた。
私はタイミングを合わせ魔狼を切りつける。
一撃だった。
魔狼の体を大きく斬りさいた。
血しぶきがあがり、魔狼は動かなくなった。
何とか魔物との初戦を勝利することができた。
「ふ~・・・・・上手くいって良かった」
初めての実戦。思った以上の出来だ。
これならこの世界でもやっていけそうだ。
しかし・・・・・私は強い違和感も感じていた。
(前の世界と比べるとパワーがあり過ぎる。
異世界だからと言ってしまえばそれまでだが・・・・・)
ここは異世界である以上、前の世界とは違う。
常識も色々と異なるだろう。
わかってはいる。
わかってはいるのだが・・・・・いまだに違いに戸惑うこともある。
気にしすぎるのは良くないとは思うのだが・・・・・。
とりあえず、肉を持って帰ろう。
みんなも心配しているだろうし。
私は村に戻りながら、モコモコのことを思い出す。
やけに私のことを心配してくれていたな~と。
~~~~~~~~~~
【回想】
「ムスイ、やめて~! 危ないよ~!
私、絶対に離れないから!」
(↑心配しているモコモコ)
「離して~!(ジタバタ)」
(↑必死にもがいているモコモコ)
~~~~~~~~~~
「プッ・・・・・ククク・・・・・」
幼女のおもりはめんどくさいが
ちょこまかしているモコモコを見るのはそれなりに面白い。
ま~心配してくれているのはよくわかる。
もしかしたら強引に出て行ったから怒っているかもしれないな。
「明日は一緒に遊んであげるか~」
私はそんなことを考えながら村へと帰っていった。
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