■【ムスイ12歳】魔狼が村の近くに
家畜が襲われた。
ヤギが一頭殺されてしまったのだ。
足跡から察するに、魔狼だ。
「た、大変じゃ! はやくみんなに知らせないと!」
魔狼は人を襲うこともある。
ほおっておくわけにはいかない。
村の男たちは村長の家に集まった。
そして、今後どうするかが話し合われた。
なお、ひっそりと外からモコモコが中の様子をうかがっている。
「村に魔物が現れてしもうた・・・・・」
「足跡を見たが、魔狼一匹じゃ。
集団で無かったのがせめてもの救いじゃが・・・・・」
「ワシらの豊かな生活はもう終わりじゃな・・・・・」
私は「豊かだったかな?」と思ったが、それはツッコまなかった。
「あの、魔狼ってどんな奴なんですか?」
「ムスイは魔狼をみたことがなかったか。
そうじゃな、こんな奴じゃ」
村長が絵を描いてくれた。メチャクチャうまいじゃないか。
「なるほど・・・・・、オオカミですね」
「オオカミ?? 魔狼じゃ」
「まぁ、呼び方は何でもいいです。
この魔狼ってそんなに強いんですかね?
剣や弓でどうにかなりませんか?」
「無理じゃな。巨体なわりに、動きが俊敏でとらえずらい。
ワシらにはどうすることもできん」
「巨体? どれくらいのサイズなんですか?」
「人がこれくらのサイズじゃ」
村長が魔狼の絵の横に人を書いた。
魔狼、でかいな。
2.5mくらいあるんじゃないか?
異世界のオオカミは凄いな。
さすがに私も怖い。
「それにしても村長、絵が上手いですね?」
「ふっふっふ、わかるかね、ムスイ君。
ワシは若いころ絵が上手くての~。
当時やっていた牛乳を運ぶ仕事の合間に
毎日毎日絵を描いていたものじゃ。
そしてな・・・・・」
あ、これは長くなる奴だ。
私は隣にいる大五郎さんに聞くことにした。
「あの、大五郎さん。
南に20kmくらいいったところに街がありますよね?
そこにギルドがあるわけですから
冒険者に退治依頼を出せばいいんじゃないですか?」
それを聞いて、大五郎さんと田吾作さんは顔を見合し
「わかっとらんな~」という顔をし、首を横に振った。
「まぁ、そうするのが普通なんじゃがな・・・・・」
「いかんせん、村には金がないのじゃよ、ムスイくん」
2人は、深い溜息をつく。
村長はまだ何かペチャクチャ喋っている。
「お金ですか。幾らくらいかかるんですか?」
「魔狼1匹なら、金貨20枚といったところじゃろう」
日本円で20万円と言ったところか。
高いと言えば高いが、頻繁に現れるわけでもないだろうし、そんなものでは?
何か問題でもあるのだろうか?
「それくらいなら皆で少しずつ出し合えば払えますよね?」
とりあえず、言ってみた。
しかし、2人の表情は硬い。
村長はまだ何か熱く語っている。
「ムスイ君は子供じゃから世の中の厳しさというものをわかっとらん」
「まったくじゃ」
「よ、世の中の厳しさ??」
なんか、のどかなこの村には似つかわしくない言葉が出てきた。
「この村は長年借金をしながらギリギリ食いつないできたんじゃよ。
稼いだお金はほとんど借金返済にあてている。
そのため、村皆のお金をかき集めたとしても金貨1枚には程遠いのじゃ」
「こ、この村はそんなに貧乏だったんですか?」
「全てを知れば、ムスイ君がドン引きするくらいには貧乏なんじゃよ」
とんでもないな。
いや、でも父さんは街で武器を売っている。
金貨1枚くらい持っているはずだ。
「父さんなら・・・・・」
「稼いだお金はすぐに使い切っているんで、家には銅貨1枚さえないぞ」
即答された。
貯金しろよ、ク●ッタレ!
私は頭を抱える。
「そ、それじゃ~、今まで魔物が出現したらどうしてたんですか?」
「みんな家にこもって、魔物様がいなくなるのを待つんじゃ」
「畑の作物は諦めるしかない。ワシらはそうやって生きのびてきた」
村長が戻ってきた。
なんという消極的な対応だろうか。
「魔物がこの村に出現したのは20年ぶりなんですよね?
このあたり、魔物は少ないんですか?」
「いや、かなりおるはずじゃ」
「ではどうして20年も村に出現しなかったのですか?」
「この村、ボロボロだったからのう」
「魔物も餌場としては見ていなかったのかもしれんなぁ」
魔物さえスルーするほど落ちぶれていたのかよ。
「しかしな、数年前からムスイ君が一生懸命頑張ってくるようになった。
おかげで食べるものが増え、ワシらの生活も豊かになった。
その結果、魔物様にとっても魅力的な狩場になってしまった、というわけじゃな」
「そうじゃな。こんなに豊かになってしもうてはな~」
「うむうむ、魔物もほおっておかんじゃろうて」
チラッ、チラッとみんなが私を見ている。
なんか私が悪いかのような話の流れにされてしまった。
「ああ、誰か頼りになる者はおらんかの~」
「そうじゃの~、
日ごろから剣や弓の修行をしている立派な男がいればいいんじゃがな~」
そして、みんなして私の方をチラッ、チラッと見てくる。
グググ・・・・・なんて人達だ。
「わ、わかりました。わかりましたよ。
私が魔狼を退治しますよ」
「おお! やってくれるか、ムスイ君!」
「ムスイ君なら必ずやってくれると信じておったぞ!」
最初から私頼みだったのかよ。
困った人たちだ。
「待ってください、ムスイはまだ12歳なんですよ!」
父さんが反対してくれた。
「父さんと2人なら楽に倒せると思うんだけど」
「いや、父さんは戦闘経験が無いから無理だ」
ノータイムで拒否された。
というか、12歳の息子に戦闘経験があるとでも思っているのだろうか?
もう、ツッコむのもバカバカしい。
こうして、私一人で魔狼と戦うことになってしまった。