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【モコモコ道】世界の平和とは①

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■■ 魔王城で迎えた朝

俺は目を覚ますと、ガバッと起き上がり、周囲を伺う。ここは・・・・・そうだ、魔王城の一室で、ベッドで寝ているのだった。魔王は敵だと思っていたのだが・・・・・。現状、魔王が危険だと判断しうる要素は無い。魔王があんなに親切な奴だっただなんて・・・・・いまだに信じられない。

俺はやわらかいベッドから降り、カーテンを開けて外を見た。外はまだ暗かった。後どれくらいで朝なのかわからない。もうひと眠りするべきだろうか・・・・・。だが、あまり眠くも無い。

俺は急にサクヤとモコモコさんのことが心配になった。魔王は敵では無いと理解しつつも、2人が安全なのかどうか気になって仕方が無いのだ。むしろ、昨日のことは夢だったのではないかとさえ思えてくる。昨日の出来事は本当のことだったのだろうか、と。

俺はいてもたってもいられなくなり、部屋を出た。そして、2人が寝ている部屋の前に立つ。2人はこの部屋の中にいるはずだ。この部屋の中でぐっすりと眠っているはずだ。だが、本当にそうなのか確認しなければ気が済まない。本当はダメなのだが・・・・・俺は扉を開け、コッソリと部屋の中に入った。

部屋の中にはベッドが一つあった。そのベッドの中で、サクヤとモコモコさんが抱き合って眠っていた。良かった。2人は無事だ。昨日の出来事は夢ではなかった。魔王は俺たちを襲う気はない。間違いなく安全なんだ。そのことがわかり、俺はホッと胸をなでおろし、部屋を出た。

部屋を出た後、俺は扉にもたれかかるようにズルズルと滑り落ち、床に座り込んだ。なんだか安心して力が抜けてしまったのだ。

魔王との戦い、逃げるだけなら何とかなると思っていた。勝つことはできないとしても、逃げるだけならば。しかし、逃げ道を封鎖された。圧倒的な力の差を見せつけられた。サクヤがやられたと思った。俺も閉じ込められてしまいもう駄目だと思った。まさか・・・・・魔王があんな奴だったとは・・・・・。今日、2人と一緒に国に帰ることができる。良かった。本当に良かった。

■■ 魔王から聞きたかったこと

本当は魔王とまだ話しをしたいことがあるのだが、さすがにこの時間に魔王が起きているとは思えない。何より非常識だ。魔王が起きるのを待つとしよう。

とりあえず、外の空気がすいたい。俺は通路を歩き、外への扉をみつけ、開けた。外に出ると、そこには「ライラプス」がいた。犬の魔物だ。

「クッ!」

俺は剣を抜こうとしたが・・・・・、しまった、剣を持ってこなかったんだ。さすがに武器無しで勝つことはできない。俺はゆっくりと後ずさりしながら建物の中に戻ろうとする。

「シュート、早いな。もう起きたのか?」
「ま、魔王」

暗闇の奥から魔王が現れた。そして、ライラプスの元へと歩み寄る。ライラプスは魔王にスリスリと寄り添っている。ライラプスは森で遭遇すればかなり強力な魔物なのだが、魔王の前では可愛らしい子犬のように見える。魔王がいるとこんなにも違うものなのか。

俺は魔王に聞いてみた。

「そのライラプスは魔王の部下なのか?」
「部下と言うよりも、友達だな」
「友達?」
「ああ、時々遊びに来てくれるんだ」

魔王はライラプスの頭をなでる。

「そうか、シュートたちは、こいつはライラプスと言うんだな」
「ああ、そうだが」
「私が住んでいた場所では魔犬と呼んでいた。場所によって呼び方が違うようだな」

魔王はライラプスの体ををポンポンと叩いた。ライラプスは3階の高さから地面へ飛び降り、森の中へと帰っていった。

「こんなに朝早くにどうしたんだ? まだモコモコ達は寝ているだろう」

本当は外の空気を吸いに来ただけなのだが、魔王がいるなら好都合だ。俺はどうしても聞きたかったことを魔王に聞くことにした。

「国に帰る前に、どうしても魔王に確認しておきたいことがあるんだ」
「ん? そうか。それじゃあ、そこに椅子とテーブルがあるから、座ってくれ。ちょうどコーヒーを用意しているんだ」

魔王はカップを俺に出し、コーヒーを注いでくれた。

「ありがとう」

俺と魔王は椅子に座って向かい合う。魔王は相変わらずノンビリと落ち着いているように見える。だが、まったく隙が無い。実力が違いすぎるということがひしひしと伝わってくる。

「それで、確認したいことって?」

魔王の方から聞いてきた。

「ああ・・・・・、どうして魔王は人族を襲わないんだ? 昨日、人族と争う気は無いと言っていたが、どうしても腑に落ちない。世界中で魔族は人族を襲っている。人族を殺している。その魔族の頂点にいる魔王が人と争う気が無いと言われても納得できないんだ。
魔王城のふもとに人族の村がある。その人たちは魔王は絶対に人を襲わないと確信していた。それを見ても、魔王が人を襲う気が無いのはわかる。だけど、それならなぜ世界中で魔族は人像を襲っているんだ? この説明がつかない」

魔王は腕置くんで、ウンウンとうなづく。

「まぁ、そう考えるだろうな・・・・・」

そして、目を開き、答えた。

「そもそも、お前たちは勘違いしているんだ。私は魔族ではない。私は魔王ではない。もちろん、ここは魔王城では無いんだ」
「魔王ではないだって? そんな、いきなりなにを・・・・・」

俺は言葉が出てこない。今までずっと魔王で会話が成立していたのに、急に魔族ではなく、魔王ではないだなんて・・・・・。

「人族が勝手に私のことを魔王と言っているだけだ。魔王と言ってくるから、一応、魔王と名乗ってはいる。しかし、私は魔族ではないし魔王でもないんだよ。
ついでに言うと、実は魔族も私を敵だと思っているんだ。人族が勇者を差し向けてくるのと同じように、魔族側の勇者も私を討伐しにやってくるんだ。だから私は定期的に「人族の勇者」と「魔族の勇者」と戦っている。人族も魔族も私のことを敵種族の親玉だと思っているんだよな」

衝撃的な話だった。まさか、魔族では無かっただなんて。しかも、魔族からも敵対視されていただなんて。

「そ、それじゃあ・・・・・、魔王は一体何者なんだ?」
「そうだな、強いて言うなら『神』だな」
「神?」

突拍子もない話しだ。いや、そう言えば全知全能の神ミライ様を自分の娘だと言っていた。それが事実なら、魔王が神であったとしても不思議ではない。

「フフ、何となく理解できているようだな。私は人よりもはるかに優れた力を持っている。永遠の命を持っている。お前の知る限り、この条件に当てはまるのは神しかいないはずだ」
「確かにそうだが・・・・・」
「お前たち人族は、人族側についているのが神で、魔族側についているのが魔王だと思い込んでいるんじゃないのか?」
「ち、違うのか?」
「まったく違う。正しくは、人族からも魔族からも崇拝されているのが神で、人族からも魔族からも恐れられているのが魔王だ」
「?????」

頭が追いつかない。魔王の言っていることは俺の常識を覆してくる。正しいことを言っているのか、そうではないのか、俺には全くわからない。

混乱している俺を見て、魔王は笑った。

「ハハハ、良く考えてみろ。私ほどの力を持つ魔王がお前の国に行けばどうなると思う? 国を亡ぼすのに1日とかからないぞ。お前の国だけではない。世界中にある全ての国を私は簡単に滅ぼすことができる。しかし、私はそんなことをする気はない。人族を一切攻撃していない。その時点で、私が人族の敵でないのは明白だろう」
「た、確かに・・・・・」
「言うなれば、私は魔王城で平和に暮らしているだけの善良な魔王なんだ。それを人族が勝手に悪者扱いして、勝手に攻めてきている。人族の行いに正義は無い。ま~、魔族も同じなんだがな」
「そうだったのか・・・・・。そうとも知らず、俺は良いことだと思って魔王を倒しにやってきてしまったということか・・・・・。すまない」

まさか、俺たち人族が魔王に迷惑をかけていただけだっただなんて・・・・・。

「いや、気にするな。ちょっと私も大げさに話し過ぎたかな。別に人族が悪いだなんて思ってはいない」
「それじゃあ国に戻ったら王様には魔王は安全だと伝えることにする」
「いや、その必要は無い。王様には『魔王を退治した』と言っておいてくれ」
「しかし・・・・・」
「実は、私はこの地を離れることにしたんだ。旅に出るつもりだ。この地に戻って来ることはもうない。だから、『退治した』で構わないんだ」
「そうか・・・・・」

魔王はここを出て一体どこに行くんだろう? だが、魔王が直接人族の国を襲撃したという話しは聞いたことが無い。魔王が魔族の敵では無いのは間違いないように思える。

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