■■魔王の悲しい宣告
どうする、どうする……。
もう、打つ手がない。
私の薬学の知識では、どうにもならない。
魔法でも、どうにもならない。
死んでリセットすることすらできない。
――完全に、詰んでいる。
いや、ある。
私はまだ最後の手段が残されていることを思い出した。
もう、これしか方法がない。
私は天に向かって叫んだ
「魔王様! 魔王様!
どうか私の願いを聞いてください!
魔王様!!」
次の瞬間、私の体はその場から消え、別の空間へと転移した。
私を天元、天の世界へと呼び寄せてくれたのは魔王様だ。
私の目の前で椅子に座っている魔王様。
その隣には女神さまがたっていた。
しかし、女神さまはいつになく、とても悲しげな表情をしていた。
まるで、これからおこるすべてを知っているかのような……。
「魔王様、お願いがあります」
私は膝をつき、頭を下げる。
「モコモコを助けてください。
モコモコは毒を受けています。
解毒する方法がありません。
魔王様なら……」
そこまで言ったところで、魔王様は私の言葉をさえぎった
「無理だ」
「……え?」
耳を疑った。予想だにしなかった発言だった。
魔王様はこの世界を作った、絶対神だ。
魔王様にできないことなど、あるはずがない。
たかが毒じゃないか。
解毒できないはずがないじゃないか。
「な、なぜですか?
魔王様なら何でもできるでしょう!」
「私の力ならモコモコを解毒することはできる」
「なら……!」
希望が灯った、しかし……。
「だが、お前も気づいているはずだぞ」
魔王様は静かに言う。
「モコモコが刺された時、お前の体は光り輝いていたな」
「は、はい……。
それは私が完全な神になった、ということですよね?」
私も大方予測がついていた。
「そうだ。
お前が完全な神になった以上、私はこの世界には深く干渉することができなくなった」
「……干渉、できない?」
「お前をここへ転移させる程度のことならなんら問題はない。
しかし……、この世界での決定事項を変えることはできない」
「け、決定事項……とは?」
一瞬、沈黙した。
しかし、魔王様はハッキリと、私にこう告げた。
「モコモコが死ぬ、ということだ」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は雷を打たれたかのような衝撃が走った。
そんなこと、考えられない。
認められない。
絶対にありえない話だ。
それを魔王様はハッキリと言った。
「決定事項」だと。
絶対的な存在である魔王様が……。
「……え? 死ぬ?
モコモコが……死ぬ、と?」
「ああ、この世界にはあの毒を解毒する方法はない。
現状を踏まえれば、モコモコの死は……確定事項だ」
そんな…..。
モコモコが…..死ぬ…..。
モコモコが…..死ぬ…..。
死ぬ…..死ぬ…..死ぬ…..。
言葉が脳内で反響し続ける。
あまりの衝撃に、思考が完全に停止してしまった。
それを見かねたのか、魔王様は言葉をつづける。
「ムスイよ、お前の力ではどうすることもできない。
モコモコの死を受け入れろ。
そして、これからは神としてどう生きていくかを考えろ。
それがお前のやるべきことだ」
な、何を言っているんだ!
魔王様の主張は受け入れられない!
「……魔王様が知っている解毒方法を教えてください。
私がそれを習得して、モコモコに使います」
必死に食い下がる私を見て、魔王はわずかに眉をひそめる。
「習得に数十年はかかる。
……間に合わない」
「それなら……それなら……」
私は必死に思考を巡らせる考える。
しかし、魔王は無慈悲に言い切った。
「ムスイよ。
……諦めるんだ」
「…………」
……諦めない。
諦められるはずがない。
魔王様はわかっていない。
私にはモコモコしかいない。
モコモコだけしかいないんだ。
わかっていない……
わかっていない……
わかっていない……。
うなだれる私を見て、魔王様は深い溜息を吐く。
「すぐにどうこうということではない。
時間はいくらでもある。
これからのことを、よく考えておけ」
そう告げると、魔王は私をアンス村に転移させた。
―――
それを、静かに見守っていた女神が口を開く。
「……魔王様。
ムスイさんは大丈夫でしょうか……?」
女神はムスイのことを心配している。
「ムスイも完全な神になればこうなることは分かっていたはずだ。
……いや、分かっていたが、考えないようにしていたのだろうな」
魔王は淡々と、しかし重い声で続ける。
「これはムスイが完全な神として、最初に乗り越えなければならない試練だ。 これを乗り越えなければ……あいつは神失格ということになる」
「…………」
女神は知っている。
魔王は無感情のように語っているが、その実、誰よりもムスイのことを気にかけていることを。
それでもなお、どうすることもできない。
それが現実だった。
ムスイが完全な神になったことで、
魔王も女神も、この世界では完全な部外者になってしまった。
かつてのようにはいかない。
その事実が、あまりにも――もどかしく、辛く、悲しく。
魔王と女神の胸を、静かに締め付けていた。
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