■魔王との決戦
「いよいよ魔王とご対面だな」
「うん」
「・・・・・」
シュートくんは剣士、サクヤちゃんは魔法使い、私は弓使い。
私たち3人はとうとう魔王城へとやってきた。
この扉の向こうに魔王がいる。
この世界で最も強いとされる存在だ。
「それにしても、本当にここまで魔族にあわなかったな」
「そうだね。どうしてお城を守らせてないんだろうね?」
「魔族の王と言われる存在なんだけどな・・・・・」
魔王城は「人族」と「魔族」の境界線近くにある。
とても魔王城を守る気があるとは思えない場所だ。
その理由を知る人は誰もいない。
「よし、いつも通り戦おう。
俺が前衛として前に出るから、
サクヤとモコモコさんが後方から援護射撃を」
「任せて!」
「シュート君、無理しないでね」
「ああ、魔王は俺たちよりもはるかに強いのは間違いない。
何度も話し合ってきたことだが
勝つことではなく、逃げのびることを前提に行動してくれ」
そう、今まで魔王を見て、生きて帰ってきた者はいない。
まずは戦い、そして逃げ切る。
魔王の強さを知った上でどう戦うべきかを考え、次の戦いに挑む。
それが私たちの作戦だ。
「準備はいいか?」
「うん!」
「大丈夫」
シュートくんは私たちの2人の顔を見る。
私たちが戦える精神状態かどうかを確認している。
うなずき、笑みを浮かべる。
「よし、それじゃあ扉を開けるぞ!」
そう言って、シュート君は魔王城の扉を開けた。
そして、扉を全開にし、木の棒をつっかえて、扉が閉まらないようにした。
これで退路の確保は万全だ。
私たち3人は魔王城の中へと入っていく。
中はとても薄暗くて遠くを見ることができない。
奥行きのある広い空間のように思えるのだけど・・・・・。
扉を開けているが、それだけの明るさではよくわからない。
恐る恐ると、奥へ歩いていく。
シュート君とサクヤちゃんは故郷に戻ったら結婚する約束をしていた。
とてもお似合いの二人だと思う。
2人のためにも、必ず生きて戻らなければいけない。
これは勝つための戦いじゃない。
生きて戻ることが最も重要なことなんだ。
私は持っている弓をギュッと握りしめる。
その時・・・・・
「バタン!」と後方の扉が閉じられた。
「しまった! 出口をふさがれた!」
私たち3人はシュート君を中心にし、身を低くした。
暗くて周りが見えない。魔王が近くにいるかもしれないのに。
私たちは次に何が起こるのかと震えながら周囲を伺った。
前方の壁のロウソクが、点々と明かりをともし始めた。
暗かった部屋が少しずつ明るくなっていく。
(ゾワッ!!)
私たちは強烈な「視線」を感じた。
「ッ・・・・・!!」
「ま、魔王か!?」
シュート君は私たちを守るように周囲を伺う。
でも、まったく余裕がない。息が上がっている。
サクヤちゃんもガタガタと震えだした。
それは・・・・・凄いプレッシャーだった。
私たちは祭壇の上に何かいることに気づく。
「あ、あれが・・・・・魔王か・・・・・」
階段を20段ほど上った一番上の祭壇に、大きなスライムのような塊がいる。
そしてプルプルとゆっくり振動している。
私にもハッキリとわかった。あれが魔王だと。
そして、確信する。絶対に勝ち目がない、と。
シュート君が私とサクヤちゃんの背中に手をやる。
「大丈夫。奴にだって必ず弱点はある。
今まで通りのことをやればいい。
突破口は俺が切り開く! サクヤ、動けるか?」
「うん!! 私のできること全てをあいつにぶつける!!」
「モコモコさんは?」
「私も大丈夫!」
シュート君は大量の汗を流しつつも必死に冷静さを保とうとしている。
サクヤちゃんの目は、今まで見たことが無いほど見開いている。
みんな、勝ち目がないことを悟っているんだ。
でも、逃げ道はふさがれた。もう、やるしかない。
「大丈夫!! 最善を尽くそう!!」
「がんばろう!!」
「うん!!」
二人とも今まで見たことが無いような最高の笑顔だった。
私も笑顔を返した。
私は全員に「防御強化魔法」をかける。
サクヤちゃんは全員に「攻撃強化魔法」をかける。
魔王はまだ動かない。様子をうかがっている。
こちらの準備は整った。
「よし・・・・・行くぞ!」
そう言って、シュート君は剣を握り
左から半円を描くようにし魔王の方へと向かう。
私とサクヤちゃんは右に移動しながら、
サクヤちゃんは「魔法攻撃」を、
私は「弓」で矢を射った。
魔法(ドン!)
(シュ~ン!)
弓(シュン! シュン!)
(プス! プス!)
攻撃は魔王に命中した。
しかし、中に吸い込まれていった。
ダメージを与えたかどうかもわからない。
いや、ダメージを与えていない。
攻撃が通用していないんだ。
「でやーーー!!」
シュート君の斬撃が決まる。
だけど、斬れていない。
プニプニしたスライム状のものに刃が通っていない。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
シュート君は必死に斬りつけるも、まったく斬れない。
私とサクヤちゃんも攻撃を続けているのに、まったくダメージを与えられていない。
その時・・・・・
「え!?」
サクヤちゃんが何かに足をつかまれた。
そして、空中に持ち上げられる。
魔王がスライム状の自分の肉体を触手のように伸ばし、
サクヤちゃんの足をつかみ、空中に持ち上げたのだ。
「ワッ、ワッ、ワッ!」
そして、サクヤちゃんの全身を球状のもので覆い囲んだ。
「サクヤーーー!!」
シュート君は、魔王から出ている触手のようなものを斬りつけ、
サクヤちゃんを助けようとしている。
しかし、まったく斬れない。
「クソ! クソ!」
次の瞬間、もう一本、触手が現れ、シュート君の足を捕らえると、
空中に持ち上げ、同じように球状のものがシュート君の全身を覆い囲んだ。
アッという間だった。
今まで一緒に戦っていたシュート君とサクヤちゃんがあっけなく倒されてしまった。
そして、私一人が残った。
「サクヤちゃん・・・・・シュートくん・・・・・」
私は今起こったことを受け入れることができなかった。
大好きなサクヤちゃんとシュートくんが、こんなにも簡単に死んでしまうだなんて。
ガタガタと震えながら、ただ、茫然とした。
今までその場から動かなかった魔王が、ズルズルと私の方に移動してくる。
勝ち目はない。逃げることもできない。
なんだか全身の力が抜けた。
私はその場に座り込んだ。
どうすることもできない。
ただ、これから起こるであろう全てを受け入れるしかなかった。
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