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■■ 魔王城で迎えた朝
珍しく朝早く目が覚めた。
俺は周囲を伺う。
一緒に旅をしてきたサクヤとモコモコさんがいない。
当然だ。2人は隣の部屋で寝ている。
普段は野宿であるため、反射的に周囲の安全と、2人の存在を確認してしまう。
もう何ヶ月も野宿だったため、すごい違和感だ。
部屋もきれいだし、ベッドもふかふか。
今でも自分が魔王城にいるとは信じられない。
カーテンを開け、窓の外を見る。
まだ暗いが、遠くの空が少し明るくなってきている。
俺はフッと思う。
昨日の出来事は本当のことなのだろうか?
サクヤとモコモコさんは本当に大丈夫なのだろうか?
隣の部屋で寝ているはずだが、あれは夢だったのではないかと思えてしまう。
魔王と一緒に食事をし、会話を楽しむだなんて・・・・・。
思い返してみると、とてもではないが信じられない。
本当に2人は無事なのだろうか?
無性に心配になってきた。
俺は扉を開け、部屋から出た。
そして、隣の部屋の前に立つ。
2人はこの部屋の中にいるはずだ。
本当はよくないのだが・・・・・、俺は扉を開け、コッソリと中に入った。
部屋の中ではサクヤとモコモコさんが寝ている。
やはり昨日の出来事は夢ではなかった。現実だ。
2人を見て、俺はホッと胸をなでおろした。
正直、無理かもしれないと思っていた。死ぬかもしれない、と。
戦いには負けたが、魔王は悪い奴では無かった。
これ以上争う必要が無いことがハッキリとした。
今日、皆と一緒に国に帰ることができる。
よかった・・・・・本当に・・・・・。
俺は2人の部屋から出た。
そして、扉にもたれかかりながら床に座った。
安心して、力が抜けてしまったのだ。
「そうだ、まだ魔王に聞きたいことがあったんだ」
俺はフラフラと立ち上がり、魔王を探しにいった。
■■ 魔王と神の違い
魔王は一体どこにいるのだろうか?
一つ一つ扉を開けて部屋の中を確認したいところだが・・・・・
さすがにこんな早朝にそれは非常識だな。
とりあえず、外の空気がすいたい。
俺は外への扉を探し、開けた。
外に出ると、そこには「ライラプス」がいた。
犬の魔物だ。
「クッ!」
俺は剣を抜こうとしたが・・・・・
しまった、剣を持ってこなかったんだ。
俺は動揺しつつ、後ずさりする。
「シュート、早いな。もう起きたのか?」
「ま、魔王」
魔王はライラプスの元へと歩み寄る。
ライラプスは魔王にスリスリと寄り添った。
来ラプスは森で遭遇すればかなりの強敵だが
魔王の前では可愛らしい子犬のように見えた。
魔王がいるとこんなにも違うものなのか。
俺は魔王に聞いてみた。
「そのライラプスは魔王の部下なのか?」
「部下と言うよりも、友達だな」
「友達?」
「ああ、時々遊びに来てくれるんだ」
魔王はライラプスの頭をなでる。
「そうか、シュートたちは、こいつはライラプスと言うんだな」
「ああ、そうだが」
「私が住んでいた場所では魔犬と呼んでいた。
場所によって呼び方が違うようだな」
魔王はライラプスの体ををポンポンと叩いた。
ライラプスは森の中へと帰っていった。
「こんなに朝早くどうした?
まだモコモコ達は寝ているだろう」
「国に帰る前に、どうしても魔王に確認しておきたいことがあるんだ」
「ん? そうか。それじゃあ、そこに椅子とテーブルがあるから
座って待っててくれ。
私はコーヒーを持ってくるから」
「いや、飲み物はいい」
「ん? そうか」
俺と魔王は椅子に座って向かい合う。
魔王は相変わらずノンビリしているように見える。
実力が違いすぎる。
俺相手に警戒する理由は全く無いということか。
「それで、確認したいことって?」
魔王の方から聞いてきた。
「どうして魔王城に魔族がいないんだ?
ずっと不思議だったんだ。
魔王城は人族の領地のすぐ近くにある。
しかし、魔族はいない。魔王だけがいる。
そして人族の領地には攻めこんでこない。
魔王に戦う意思が無いということはわかったが
どうしてこんなところに魔王城があるのか、ずっと不思議だったんだ」
「まぁ、そうだろうな・・・・・」
魔王は眼を瞑り少し他人事のように考え込む。
そして、目を開き、答えた。
「お前たちは勘違いしているようだが・・・・・私は魔族ではない。
だから、私は魔王ではないし、ここは魔王城では無いんだ」
「魔族ではないだって? し、しかし・・・・・」
俺は言葉が出てこない。
今までずっと魔王で会話が成立していたのに、
急に魔族ではないだなんて・・・・・。
「人族が勝手に私のことを魔王と言っているだけだ。
魔王と言ってくるから、魔王と名乗ってはいるが、
私は魔族では無いのだから魔王ではないんだ。
ついでに言うと、実は魔族も私を敵だと思っている。
人族が勇者を差し向けてくるのと同じように
魔族側の勇者も私を討伐しにやってくるんだ。
人族も魔族も私のことを悪の親玉だと思っているんだな」
衝撃的な話だった。
まさか、魔族では無かっただなんて。
しかも、魔族からも敵対視されていただなんて。
「そ、それじゃあ、魔王は一体何者なんだ?」
「そうだな・・・・・、強いて言うなら『神』だな」
「か、神?」
突拍子もない話しだ。
いや、そう言えば全知全能の神ミライ様を自分の娘だと言っていた。
それが事実なら、魔王が神であったとしても不思議ではない。
「フフ、何となく理解できているようだな。
私は人よりもはるかに優れた力を持っている。
永遠の命を持っている。
お前の知る限り、この条件に合うものは神しかいないということだな」
「確かにそうだ・・・・・」
「お前たち人族は、
人族側についているのが神で
魔族側についているのが魔王だと思い込んでいるんじゃないのか?」
「ち、違うのか?」
「まったく違う。正しくは
人族からも魔族からも崇拝されているのが神で
人族からも魔族からも恐れられているのが魔王だ」
「?????」
頭が追いつかない。
魔王の言っていることは俺の常識を覆してくる。
正しいことを言っているのか、そうではないのか、
俺には全くわからない。
混乱している俺を見て、魔王は笑った。
「ハハハ、難しく考える必要はない。
簡単に言うと、
・魔王は人族を攻撃したりしない。
・魔王は魔族を攻撃したりはしない。
・魔王は魔族の仲間ではない
これだけわかっていればいい。
人族にとって私は何の脅威でもない。
勝手にお前たちが攻め込んできていただけだ。
だから心配することなど何もないんだ」
「そうか・・・・・。
話は分かったが
俺は王様にどう説明すればいいか・・・・・」
俺たちは王様の命を受け魔王討伐をやっている。
国に戻れば戦いの報告をしなければいけない。
「王様には『魔王を退治した』と言えばいい」
「だが・・・・・」
「実は、私はこの地を離れることにした。
旅に出るつもりだ。
この地に戻って来ることはもうない。
だから、『退治した』で構わないんだ」
魔王は立ち上がり、東の空を見つめた。
地平線から朝日が昇り始めている。
魔王はそれを悲しそうな目で見つめていた。
まだ聞きたいことは沢山あったのだが・・・・・、
そんな魔王を見ていると、俺は聞けなくなってしまった。
「日があの山の高さまで上がったら朝食にする。
朝食を食べ終わったら出発だ。
ここを出る準備をしておいてくれ」
「わかった」
魔王は3階の屋上から飛び降り、地面に着地した。
そして、そのまま森の中へ入っていった。