■ムスイ病死する
「ぐっ・・・・・ううう・・・・・」
「どうしたのムスイ? どこが悪いの? しっかりして!」
次の日の朝、私は体中の激痛で目が覚めた。
急激に体調が悪くなってしまったのだ。
いや、正確には昨日から体調はおかしかった。
結婚式があるため何でもないふりをしていたが、かなりきつかった。
1日くらい無理しても問題ないだろうと判断していたが
まさか、次の日にここまで酷い状況になろうとは・・・・・。
実家の方から父さんと母さんが駆けつける。
「ム、ムスイ・・・・・」
「こ、これは!
村長、医者は呼んだんですか?」
「今、馬車の準備をしているところじゃ!」
「俺が行きます! この中では最も早く移動できるはずです!」
私の状況を見て、かなりヤバイと2人は悟ったようだ。
「ムスイ、街に行って医者を連れてくるから待ってろ!」
「か、金はあるのかい、父さん・・・・・」
「無い! だが、縄で縛って連れてくるから大丈夫だ! 安心しろ!!」
か、金が無いから医者を縛って連れてくる!?
その話の一体どこに安心できる要素があるというのか。
あれほど貯金しろと言ったのに・・・・・。
父さんはバタバタと外に行き、馬車に乗って街に向かった。
ヤメロと言いたかったが、私には止める力もなかった。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・・」
「ムスイ・・・・・ムスイ・・・・・」
モコモコがベットの横で泣いている。
私の手を握って。
「だ、大丈夫だよ・・・・・モコモコ・・・・・
そんなに・・・・・心配、しなくても・・・・・」
「うううう・・・・・」
そうは言ったものの、さすがに私でもわかる。
これはダメだ。これは命を奪う病気だ。
とても持ちこたえられそうにない。
私の命はここまでだ。
異世界に転生して色々と頑張ってきたが
まさかここが私の人生の終着点になるとは・・・・・。
今から幸せな人生を送れるはずだったのに、
こんなにもあっけない幕切れになるとは・・・・・。
しかし、ただ一つ心残りがある。
それはモコモコを幸せにすることができなかったということだ。
私はモコモコと生きたかった。
モコモコを笑顔にしたかった。
誰よりも、誰よりも幸せにしてあげたかった。
それなのに・・・・・。
いや、違う! だからこそ、だからこそだ!
私は最後の力を振り絞って、モコモコに言った。
「モ、モコモコ・・・・・大事な話がある。
しっかり聞いてくれ・・・・・ハァハァ」
「何? どうしたの?」
「君は、まだ若いんだ・・・・・。
これから、長い人生を、生きていかなきゃいけない・・・・・
だから、だから・・・・・・ハァハァ」
私は残った力を振り絞りながら話した。
だが、本当はこれ以上、言いたくはない。言いたくはない。
だが、こうなったからには言わなければいけない。
言え! 言いきろ、ムスイ!
最後まで言い切って、死ね!
私はそう自分に言い聞かせた。
「だから・・・・・良い人を見つけて、幸せになってくれ・・・・・ハァハァ」
「何? 何を言っているの、ムスイ?」
「優しい人を・・・・・君を大事にしてくれる人を探してくれ。
そうすれば、きっと君の人生は幸せなものになる・・・・・」
「何を言っているの! 私たち、結婚したばかりじゃない!」
「本当は、君を幸せにするのは、私の役目だった・・・・・
だけど・・・・・それはもう、できそうにない・・・・・」
「いやだ~! これからいっぱい、いっぱい幸せになるんだ~!」
「大丈夫、大丈夫だ、モコモコ・・・・・。
君は必ず幸せに、なれる・・・・・」
私に寄り添いワンワン泣くモコモコの背中を私はなでる。
言えた。言い切ったぞ。
もう、私はモコモコを手放したんだ。
だから、モコモコはこれから自由に生きていけるはずだ。
モコモコならきっとわかってくれるはずだ。
必ず、必ず、新たな幸せを見つけてくれるはずだ。
本当は私が幸せにしたかった。
一緒に幸せな人生を歩みたかった。
だけど、もうそれはできそうにない。
モコモコ・・・・・幸せになってくれ・・・・・。
それが、私の最後の願いだ・・・・・。
どうか、どうか・・・・・、いつまでも、いつまでも・・・・・。
・
・
・
「ッ!
・・・・・ム、ムスイ? どうしたのムスイ?
返事をして! ムスイ! ムスイ!
あ、あああああああああ~~~!!」
「ムスイ・・・・・」
モコモコが泣いている。
母さんも泣いている。
駆けつけていた村のみんなもすすり泣いている。
さようなら、モコモコ。
幸せになるんだぞ。
こうして、私の異世界での生涯は幕を閉じた。
享年18歳であった。
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(天元より)
「・・・・・ムスイさん、死んじゃいましたね」
「ああ、死んだな」
「確か、神族は死なないと聞いたように思うのですが?」
「ああ、死ぬことは無い」
「え、でも???」
女神は魔王の言ってることがおかしくて首をかしげる。
「ふむ、始まったな」
「始まった?」
女神は映像に映し出された世界を見る。
すると・・・・・時が逆戻りしし始めた。
世界のすべてがどんどん過去へと戻っていっている。
「これは・・・・・」
「時間が18年前に戻っているんだ。ムスイが産まれたばかりのな」
「18年前に戻る? それはどういうことですか?」
「説明は後だ。死んだムスイの魂は現在、精神体の世界に戻っている。
女神よ。ムスイの魂の対応をしてくれるか」
それを聞いて、女神の顔は少し引きつった。
「え? またあの場所でムスイさんと会うのですか?」
「ああ、そうか。
女神は以前、ムスイにこっぴどこやられているからな。
気が進まないだろう。私が行こう」
そういう魔王を女神は制止する。
「い、いえ! これは私の務めです!
私がムスイさんの対応をさせていただきます!」
私的な感情で自分の役目を失うだなんてとんでもない!
女神は自分の務めを奪われたくは無いと、魔王に必死に主張した。
「そ、そうか?」
「はい! では、行ってきます!」
そう言って、女神はムスイのいる精神体の世界へと転移した。
「別に女神の務めというわけではないのだがな・・・・・」
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