■結婚式
18歳になり、私とモコモコは結婚した。
結婚式は最も大きな村長の家で行われた。
皆が集まり、豪華な食事をした。
村の人たちはみんなで私たちのお祝いしてくれた。
私にとって、とても幸せな結婚式だった。
私の実家の方は鍛冶屋をやっていてちょっとうるさい。
そこで、しばらくはモコモコの家で暮らすことになった。
結婚式が終わったその夜
私とモコモコは、モコモコの部屋のベットで一緒に寝た。
お互い向き合い、手を握り合い、顔を赤らめながら話をした。
■モコモコの愛
「ねえ、ムスイ。
私とムスイが初めて出会った日のことを覚えてる?」
「え? 初めて出会った日?
そうだな・・・・・いつだったかな・・・・・」
私がモコモコと初めて出会ったのは0歳1ヶ月の時だった。
母さんに抱っこされて散歩していた時
モコモコはおばあさんにおんぶされてウトウトしていた。
私の記憶ではこの時なのだが、おそらくモコモコが言いたいのはこの時じゃない。
「う~ん、思い出せないな~・・・・・」
仕方が無いので、私は困ったふりをした。
すると、モコモコはクスリと笑って、話し出した。
「ムスイと私が3歳の時、ムスイがウチの畑を耕していた時だよ。
私と同じ年の小さなムスイが畑を耕していてビックリしちゃった。
それで、私はムスイに近寄って聞いたの。
『何をしているの?』って。
そしたらムスイは『畑を耕しているんだよ』って
『何でウチの畑を耕しているの?』って聞いたら
『沢山野菜が取れるようにするためだよ』って、そう言ったのよ。
覚えてない?」
「ああ~、あったね。あの時か~」
モコモコは目を伏せ、少し寂しそうに話しだした。
「あの時が、私の人生で一番つらい時期だった。
小さいころ、おじいちゃんとおばあちゃんは体が弱かったの。
私がいるときは元気に振る舞っているんだけど
私が布団に行った後、脚が痛い、腰が痛いって2人で話してた。
二人でお互いの肩をもんだり、腰を叩いたり、脚をさすったり。
痛いのに一生懸命に働いていた。生活を支えるために頑張っていた。
私はそんなおじいちゃんとおばあちゃんを隠れて見ていた。
本当に、本当に、辛そうで、悲しかった。
それで私は何とかお金を稼ぎたいと思って裁縫を始めた。
おじいちゃんとおばあちゃんを楽にしてあげたい。
少しでも助けてあげたいって頑張った。
だけど、私はまだ3歳で何をやってもうまくできなくて
おじいちゃんとおばあちゃんの邪魔にしかなっていなかった。
それなのに、おじいちゃんとおばあちゃんは私に『ありがとう』って言ってくれた。
でも、私は感謝されるようなことはしていない。何もできていない。
私ではおじいちゃんとおばあちゃんを助けることができない。
それがとっても辛くて・・・・・。悲しくて・・・・・。
夜、部屋に行くふりをして、いつもおじいちゃんとおばあちゃんを覗いていた。
腰が痛くなくなったよ、脚が痛くなくなったよって言わないかなって。
元気にになったよって笑っていてくれないかなって、そう思ってた。
だけど、いつもいつもおじいちゃんとおばあちゃんは辛そうだった。
このままじゃ、おじいちゃんとおばあちゃんが死んでしまう。
どうしよう。どうしようって。
だから、私はお布団の中で毎日毎日神様にお願いしたのよ。
『神様、お願いします。
おじいちゃんとおばあちゃんを助けてください。
私が一生懸命働きますから二人を楽をさせてください。
お願いします。お願いします』
って、泣きながら毎日毎日神様にお願いしたの。
そしたら、ムスイがウチの畑にいた。
『何してるの?』って聞いたら『畑を耕しているんだよ』って。
畑を見たら、昨日までとは比べ物にならないくらいに綺麗になっていた。
草も全部なくなっていて、土も綺麗に耕してあった。
野菜の種も植えてくれた。
水を運んできて、かけてくれた。
今まで見たこと無いくらい、畑が綺麗だった。
私はこの時
『神様が私の願いを聞き入れてくれたんだ! ムスイは神様なんだ!』
って思ったの。
神様がムスイの姿で私の願いをかなえに来てくれたんだって、そう思った。
本当はその時『ありがとう』って言いたかったんだけど。
恥ずかしくって言えなかった。
それで、抱き着いてずっとスリスリしてたのよ」
「そうか・・・・・そういうことだったのか・・・・・」
てっきりモコモコは両親がいなくて寂しいのだと思っていた。
モコモコはモコモコなりに色々と気苦労があったようだな。
「その日の夜、おじいちゃんとおばあちゃんをコッソリ覗くと
2人ともとても嬉しそうだった。
『ムスイ君のおかげで楽ができた』
『今度食べ物を作って持っていこう』って。
私にはおじいちゃんとおばあちゃんを笑顔にすることはできなかった。
だけど、ムスイは笑顔にしてくれた。本当の笑顔にしてくれた。
ムスイはウチだけじゃなくて、村中の畑を耕してくれた。
村の人たちもみんなお年寄りだから困っていたんだけど
ムスイが頑張ってくれたおかげで、みんなの生活が楽になった。
森の中で家畜になる動物を集めてくれた。
果物の木をたくさん植えてくれた。
畑に水を入れやすいように川をひいてくれた。
魔物が村に来ないように堀を作ってくれた。
私だけじゃない。おじいちゃんもおばあちゃんも
村のみんなも、ずっとずっとムスイに感謝してたんだよ。
ムスイのおかげで、この村の人たちはとても幸せになった。
みんな、みんな、とっても、とっても感謝してるのよ。
ありがとう、ありがとう、ムスイ」
モコモコはそう言って、私にしがみつき、抱きしめてきた。
そのように感謝されると、気恥ずかしいものだ。
「い、いや~、その~・・・・・私はできることをやってきただけだから
あんまり気にしなくていいよ」
そう言って、私はモコモコにスリスリしながら、背中をよしよしとなでた。
「だから・・・・・、だから・・・・・、
私は、その、初めて会った時からずっとムスイのことが好きだったの。
そして、毎日毎日、もっともっと好きになって行ったの。
だから、だから私、今とっても幸せなの!」
モコモコは顔を赤らめつつ、そう言って、私にしがみついた。
普段、あまり喋らないモコモコの長い長い演説だった。
モコモコの必死な思いを聞いて、私はとても嬉しくもあり
とても照れ臭く感じた。
モコモコがこんなにも思いを伝えてくれたんだ。
私も何か言ってあげなければ。
言ってあげなければ・・・・・と思うのだが
そう思った時に限って言葉が出てこない。
私は考えに考え、必死になって言葉を絞り出した。
「え、えと、私もね。ずっとモコモコのことが好きだったよ。
モコモコと一緒にいるととっても幸せだったからね。
それで、モコモコと結婚したいと思ってたんだよ、
小さい頃から、うん、ほんとだよ」
変に緊張してしまった。
自分でも何言ってるのかよくわからない。
言うだけ言ったが、なんだかアホなことを言ったような気もする。
私は恥ずかしくて、顔を少し赤らめ、顔をモコモコからそむけてしまった。
「フフフ、小さなころから私のこと好きでいてくれたんだ」
「う、うんうん、そうなんだ、ハハハ」
なんだかよくわからなくなったけど
私とモコモコは満面の笑みだった。
「ムスイと結婚出来て、私はとっても幸せだよ」
「うんうん、私もだよ。モコモコ、幸せになろうね」
そう言って、私とモコモコはお互い抱きしめあいスリスリした。
こうして、私とモコモコの幸せな一日は終わった。
これから私とモコモコの幸せな人生が始まる。
そう信じていた。
しかし・・・・・それは実現することは無かった。
二人の幸せは、私の人生は、もう終わりを迎える直前だったのだから・・・・・。