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【モコモコ道】異世界の両親

■【ムスイ3歳】この世界の仕組み

異世界に転生して3年の月日が流れた。まずはこの世界の状況をみんなに説明しよう!

【ムスイ一家】

ウチは「父さん」「母さん」そして「私」の3人家族だ。父さんは27歳。武器職人で、毎日、カンカンと鉄を叩いている。母さんは21歳。父さんを支えながら家事をやっている。

父さんと母さんはとても仲がいい。父さんは仕事の合間の休憩時間になると、いつも母さんのそばに行ってスリスリしている。何が楽しくてあんなにスリスリしあうのか私にはよくわからないが、おそらく異世界文化というものなのだろう。尊重しなければならない。

父さんはなかなか優秀な鍛冶師みたいで、ウチは村の中でもかなり裕福な家庭になるようだ。父さんは稼いだお金の多くを母さんの為に使っている。父さんにとっては母さんを大事にすることが生きがいなのだろう。愛妻家という奴だな。

【アンス村】

私たちが住んでいるこの村は「アンス村」と言う。住んでいる人のほとんどが老人だ。昔からこの村に住んいるのが「村長」「大五郎さん」「田吾作さん」、そしてその奥さんの「松さん」「竹さん」「梅さん」で合わせて6人。私と同い年の女の子がいて、おじいさんとおばあさんと一緒の3人で住んでいる。そして、ムスイ一家が3人。ということで、この村は合計12人が住んでいるということになる。

そう、ウチの村で若く労働力になるのはウチの「父さん」くらいなものだ。それ以外は皆年寄りであるため、まともに働くことができないようだ。そのためか、畑も荒れている。村全体もすたれている。完全に没落している村だ。

父さんは稼いだお金で食料を買い、村の人たちにも分け与えている。村の人たちはとても喜んでいる。父さんの心の広さには頭が下がるよ、まったく。

【魔族と魔物がいる】

異世界転生して最も恐ろしいと思ったのが「魔族」と「魔物」の存在だ。やはりいるんだな~。

人族にとっての最強の敵が「魔族」だ。人族の村を襲ってくることもある。もちろん、殺されることもある。そのため、魔族と戦うために戦力を整えなければいけない。とは言っても、この村は魔族が住んでいる地域から遠いため、今のところは攻撃される心配は無い。

次に「魔物」。魔物は村のすぐ近くの森の中にもいるらしい。怖い、怖すぎる・・・・・。とにかく、魔物に勝てるくらいにならなければ生きて行けない。私は魔物と戦うためのトレーニングをやろうと心に決めた。そして、毎日毎日、剣と弓の修行を行っている。

そう言えば「魔法」もあるらしい。ま~、今のところは興味がない。

■母さんは貴族だった

私は毎日母さんと村の周囲の森の中を散歩している。23歳+3歳の人生を送っている私にとって、こうやって小さな子供のふりをすることも結構大事なことなのだ。

森の中は危険なのではと思ったが、どうやらこの村には10年以上魔物が出現していないらしい。思ったよりも安全なところに住んでいるようだ。いやいや、でももしもということは十分ありえる。しっかりと剣と弓の修行を続けなければいけない。

私は散歩をしながら母さんに聞いた。

「母さん。父さんは村の人たちに食料を与えたりしているけど、どうしてあんなにやさしいの?」

そう言うと、母さんはニッコリと笑ってこう答えた。

「それはね、村の人たちが母さんたちにとても優しかったからよ。お父さんとお母さんはね、とっても遠くにある街に住んでいたんだけど、住めなくなってしまってね。それで旅をしながら安住の地を探していたのよ。だけど、どこの村も私たちを受け入れてはくれなかった。素性がわからない人を村に入れることはできないってね。そして、やっとたどりついたのがこの村だった。この村の人たちは私たちの素性なんか気にしなかった。住む場所も、土地も与えてくれた。私たちはやっと落ち着いて暮らすことができるようになったのよ。だから、お父さんはお礼として村の人たちのために頑張っているのよ」

「そうだったんだ・・・・・」

村のお年寄りたちではまともな仕事ができるとは思えない。ほとんど父さんが村を支えているようなものだな。父さんは本当に偉いと思う。

「でも、どうして母さんたちは前住んでいた街をでなきゃいけなくなったの?」

「う~ん、それはね・・・・・」

母さんは少し考え込む。

「ムスイにはちょっと難しい話しかもしれないな~」
「たくさん本を読んで勉強しているから大丈夫だよ」
「そう? そうね、ムスイは頭がいいからね。それじゃあ話そうかな」

そう言って、母さんは父さんと出会った時の話をした。

「お母さんは貴族だったのよ。貴族というのはとってもお金持ちの人たちのことよ。綺麗な服を着て、美味しい食べ物を食べて、お母さんには専属の召使いが2人いたわ。でも、お母さんは貴族としての生活よりも、街の中で遊んでいる貧しい子供たちの方が楽しそうに見えたのよ。小さいころから礼儀正しく、行儀よくと指導されてきたけど・・・・・私には貧しい子供たちの方が幸せそうに見えた。

そんなある日、お父さんと出会ったの。カンカンと音が鳴り響いていてね。家の中を覗いてみると、お父さんが一生懸命に鉄を叩いていた。召使いたちが『こんな下品なものを見てはいけません』と言っていたけど、お母さんにはとても輝いて見えたのよ。それからも、お母さんは近くに来るたびに、お父さんがカンカン叩いているのを見に来るようになったわ。そして、お父さんと友達になって話しをするようになったし、召使いから隠れる手伝いをしてもらったし、とても楽しい日々が続いた。

お母さんは15歳で学園に入り、寮で生活しなければいけなくなった。お父さんに会えなくなってしまったの。そして17歳の時に、お母さんのお父さんから『この人と結婚しなさい』って言われて、好きでもない人と結婚することになったのよ。お母さんは嫌だと言ったんだけど『もう決まったことだから』って。そして、話しはどんどん進んでい待って、結婚式前日になってしまった。

お母さんは最後にどうしてもお父さんに会いたくなってね。夜、お父さんがいる鍛冶場にいった。そしたら、お父さんは鍛冶場で道具の整備をしていた。お母さんはお父さんに言った。『私、明日結婚することになった。だからもう会えない。今までありがとう』って。そう言って、その場を去ろうとしたんだけど、お父さんに腕をつかまれたのよ。そして、お父さんはお母さんにこう言ってくれた。『俺と結婚してくれ! ずっと君を笑顔にしてみせる! ずっとスリスリする! 君を一人にはしない! いつも一緒にいてスリスリし続ける! ずっと! 死ぬまでずっとだ! だから、だから、俺と結婚してくれ!』って。お母さん嬉しくって嬉しくって、お父さんに抱き着いて泣いちゃったわ。そして、お父さんと駆け落ちする決意をしたのよ。その話を鍛冶屋のおじさんが聞いていてね。食べ物、お金をあるだけ集めて、馬車までくれて、私たちを街の外に出してくれたのよ。

そうやってお母さん達は旅に出て、そして、このアンス村にたどりつき、ムスイを産んだのよ。村の人たちが親切でなかったらどうなっていたか。だから、お父さんはいまでもずっと恩返しを続けているのよ」

そうか。そういうことだったのか。
母さんは過去のことを思い出して、少し涙ぐんでいて。私もつられて泣きそうになったが、なんだか恥ずかしい。3歳の子供だし、わからないふりをした。

「ちょっと難しくてよくわからなかったけど・・・・・父さんがとてもカッコいいってことはよくわかったよ」
「フフフ、そうよ。父さんはとっても素敵な人なのよ」

母さんは嬉しそうにそう言った。

「それじゃあ、家に帰ろうか」
「うん」

私は母さんの手に引かれながら歩いた。

そして、心の中で思う。
ありがとう、父さん、母さん。私はこの世界で何をやるべきか、わかったような気がするよ。

次の日の朝、
私はクワを手にし、荒れ果てた村の畑を見渡した。
父さんが鍛冶師としてお金を稼ぎ村の人たちの為に頑張るなら
私は畑を耕してその恩を返そう。

それにしても、ひどく荒れ果てた畑だな~。
なんともやりがいのある仕事だろうか。

「・・・・・よし! とりあえず、全ての畑を耕すか!」

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