ムスイ0歳は「魔王討伐」をどのように実行に移すべきか考える。
「魔王」に関しては以前、セーナから話を聞いたことがある。
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「魔王というのは魔族の頂点に君臨する存在です。この魔王を倒さない限り、人間世界に平和は訪れないと言われています。そのため、世界各国で魔王討伐の依頼がギルドに出されていますが、それを成し遂げた者は誰もいません」
「魔王ってどんな存在なんだ? 巨大だとか、パワーが凄いとか、魔法が凄いとか?」
「いえ、実は正確な情報が無いんです。山のように大きかったという人もいれば、魔法が凄かったという人もいます。色々な目撃情報があるのですが、一貫性がありません。中には魔王は実在しないという人もいます」
「・・・・・つまり、いるかどうかもわからない、ということか」
「はい。そうなります。魔王がいるとされる魔王城の場所はわかっているのですが、危険なルートを幾つか乗り越えなければいけません。・・・・・まさか、魔王を倒そうという話しでは・・・・・」
「いやいや、まさかそんな」
「ホッ、そ、そうですよね」
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という話しをしたことがあったな。
魔王城はどこなのか、どういったルートを通ればいいかちゃんと聞いておけばよかったな~。後々、セーナに会いに行かねば。
・・・・・そんなことを考えていると、両親がやってきた。
「ム、ムスイ! こんなところで何をしているんだ!」
「お願い、正気に戻って! お前はさっき生まれたばかりなんだよ!」
モコモコに抱き着いて考えていた私。両親が泣きながら私を説得しにかかる。だが、私としても絶対に離れたくはない。三日三晩くらいは抱き着いていたい心境だ。
両親は私を引き離そうとしたが、私は無視してモコモコに抱き着き続けた。
「ム、ムスイくんは元気だねぇ・・・・・」
モコモコのおじいさんおばあさんはドン引きしている。
結局、私の勝利に終わり、私は一週間もモコモコに抱き着き続けた。その間、私の両親は、モコモコのおじいさんおばあさんに頭を下げながら私の面倒を見た。
「おおお~~!! やっと、やっと離れてくれるのか!!」
「ありがとうムスイ!! ありがとうムスイ!!」
この両親にも苦労させてしまっているな~。だが、私もモコモコを失った悲しみを癒す時間が必要だったのだ。わかってほしい。
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村の周囲はすでに開拓済みだった。私が前回の生でやった開拓の多くがそのまま残っていた。女神さまからは聞いてないが、そういう設定なのだろう。
私が建てた「碁会所」も存在する。以前は隣に「モコモコの家」があるだけだったが、現在は「ムスイの両親の家」も同じように隣り合っている。
アンス村の人たちは相変わらず「碁会所」に集まってきている。碁会所文化は私が生まれる前から存在するという設定になっている。
細かい手直しが必要な場所もあるが、これだけ引き継がれているのであれば助かる。後は、村がまた魔族に襲われた時のために、防壁をしっかりとつくっておくくらいだろうか。
私は筋トレをガッツリ頑張った。田畑も耕した。村の開拓、森の開拓なども見て回った。村の防壁もさらに強化した。肉体面は10歳になるころには完全に整った。
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私は10歳のタイミングで町のギルドに行った。シュートとサクヤを迎えに行くためだ。魔王退治に向かう際、必ず必要な戦力になる。しかし、2人はまだ9歳だろう。いったい何歳からギルドにいたのやら。
シュートとサクヤは・・・・・お、来た来た。やっとギルドに来てくれた。
「シュート、サクヤ、久しぶりだな。では、行こう」
そういって、私は2人を両腕に担いだ。
「うわ~! なんだ~!?」
「なになに、なんなの??」
2人は混乱している。当然だ。だが、いちいち対応している暇はない。早く村に戻って修行を開始したい。
「シュート君、サクヤちゃん、依頼の報酬は?」
「あ、いりません。差し上げます」
「なに勝手なこと言ってんだ!?」
「うわ~ん、助けて~!!」
まったく・・・・・、冒険者2人が1人に担がれて連れ去られるだなんて情けない話ぞ、シュートにサクヤよ。私は2人を馬車のところまで連れてきて下ろした。
「お前たち2人、強くなりたいんだろ? なら私についてきなさい」
「?????」
「お、お前いきなり何言ってんだ?」
「私とお前たちでは歳はさほど変わらない。しかし、実力差が大きいということはもうわかっているだろう? 私には強くなるためのノウハウがある。私についてくれば2人とも圧倒的に強くなれる。衣食住全ての面倒も見る。金だってギルドよりもたくさん稼げる。どうだ? 私について来る気はあるか?」
2人は顔を見合わせる。
「・・・・・わかった、お前についていこう」
手っ取り早く交渉は成立した。
そういえば、どうしてこの2人は強くなりたいんだろうな? 聞いたことなかったが・・・・・、まぁ今はどうでもいい。
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シュートは文字の勉強をしつつ、「開拓」「畑仕事」をさせ、時々「剣術の練習」に付き合ってあげた。
サクヤはムスイが前もって集めていた魔法の本を読みながら魔法を独自に勉強していった。
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ムスイ12歳の時、図書館にセーナがいるのを発見。
ムスイはセーナに「魔王城に行くための安全なルート」を調べてほしいと依頼した。
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私はシュートとサクヤには私の目的を話しておいた方がいいと考え、話をすることにした。
「ま、魔王を倒すだって!?」
「ほんき?」
「うむ、本気だ」
さすがに2人も驚いている。
「だが、魔王討伐は最高難度の討伐依頼だぞ。俺たち3人でできるとは思えない」
「うん、ムリだよ」
「常識的に考えて無理なのはわかっている。だが、私には魔王を倒すプランがある」
二人は顔を見合わせる。
「そもそも、魔王って本当にいるのか?」
「私たちが考えているような魔王は存在しないと思う。何故なら、人間の世界にだって”女神”は存在しない。あくまで信仰上の架空の存在だ。おそらく魔王も同じだろう。魔族の信仰の対象か、もしくは人間による勝手な妄想か、そのどちらかだと思っている」
ま~、女神はいたんだけどね。だけど、女神と人間に交流はない。ならば存在しないのと同じ。魔王がいたとしてもそういった存在だろう。
「魔王が存在しないのなら、何を倒すんだ?」
「魔王はいないと思うが、人間の王がいるように、魔族にも王となる存在はいるだろう。人間の王がそうであるように、魔族の王もきっと弱い。さしで勝負すれば余裕で勝てるだろう。問題は魔族の王のもとにどうやってたどりつくかだ。それさえクリアー出来れば、必ず倒せるというプランだ」
「そういうことか・・・・・」
シュートとサクヤにはこう言ったが、女神が存在する以上、必ず魔王もいると私は確信している。
「黒の雷」とは何だ!? あのような神がかった行いを魔族ができるとは思えない。「魔族には人間を超越した魔法がある」のかもしれないが、私は「魔王が手を貸した」と考える方が納得できる。魔王は必ず実在するはずだ。魔王を倒すことがこの世界の平和につながる。モコモコを守ることにつながらう。ならば、絶対に成し遂げなければいけない。
シュートとサクヤは二人で相談している。そして・・・・・
「わかった。俺たちも協力する。魔王退治をやろう」
「ありがとう、シュート、サクヤ」
男たち3人に熱い友情が芽生えた。
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一年後、セーナからの手紙が届いた。「魔王城までの安全なルート」の情報だ。これで準備は整った。
私たち3人は、魔王討伐を2年後とし、それぞれ準備を続けた。
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(2年後)
出発の朝、ムスイ、モコモコ、シュート、サクヤの4人は最後の朝食を行う。この後、魔王討伐に向かうことになる。モコモコには心配かけないよう
「3人でギルドの依頼を受けてくる」
「二週間はかかると思う」
と話している。
しかし、モコモコはこういう時は勘が鋭い。何かムスイたちとんでもないことをやろうとしているのではと。
私は村長にだけ事情を話した。村長は止めたが、私の決意は固かった。「一ヶ月経って戻って来なかったら死んだと思って下さい」と告げていた。
モコモコは村の出口まで見送りにやってくる。
「ムスイ、本当に大丈夫なの?」
「シュートとサクヤもいるんだよ? 安全に決まってるじゃないか」
モコモコは何か納得していないようだ。
「シュートくんもサクヤちゃんも危険なことはしないでね」
「だいじょうぶです。ほんとうにだいじょうぶです」
「心配しないで待っててね」
ぐ・・・・・モコモコが心配しているのは絶対にシュートの責任だろ。
そして、私はシュート、サクヤの2人を連れ村を出た。用意した馬3頭を使い、魔王城を目指す。
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私たちは「セーナが用意した地図」を元に魔王城へと向かった。地図には安全な経路に線がひかれてあり、どのあたりがどのように危険であるかも手紙に書かれている。危険ルートを避け、安全な場所を進み続けた。
「魔族と戦いながら魔王城を目指すんじゃないのか?」
「そんなことやってたら魔族の大群が押し寄せてくるだろう。あくまで戦わず、隠れて魔族の王を暗殺する。そして、逃げる。それで終わりだ」
シュートはあまり納得していない。
「しかし、暗殺して逃げるって・・・・・それ卑怯じゃないか?」
「勝ち負けに卑怯もくそも無い。勝てば正義、負ければ悪、ただそれだけの話だ」
「勝てば正義なんだ~」
「そう。例えどんな卑怯な勝ち方であったとしても、魔族の王を倒したという結果を出せば、それが全てとして評価される。後は世間が我々を美化してくれるはずだ。そして、後年では伝説として語り継がれる。それが歴史というものだ。」
「そ、そうか・・・・・」
「歴史、スゲーな」
「そう、歴史は凄いんだ。だからこそ勝たなければいけない。」
ま~、私としては「魔族の王を倒す」ではなく、「本物の魔王を倒す」が理想なのだが。しかし、本当に魔王がいるかどうかもわからない。これは一回目に過ぎない。一つ一つ潰していけば、いずれは本物の魔王に出くわすかもしれない。そうやって、モコモコが安心して過ごせる世界にしなければいけない。私の決意はとても固いものであった。
ムスイたちはとうとう「魔王城」が見える位置までやってきた。
「あれが魔王城か・・・・・」
「お化けが出そう・・・・・」
ほんとに不気味だ・・・・・。あんなところに近寄りたくはない。魔王城のふもとには、魔族が住んでいると思われる家々も立ち並んでいる。これもまた不気味で怖い。
「よし・・・・・、ここまでだな。お前たち2人はここで待っていてくれ。私が一人で魔王城に忍び込んで、サクッと暗殺してくるから」
「ええ~!」
「お、おいムスイ、何言っているんだ、ここまで来て。俺たち3人でやるんじゃないのか?」
「3人で行ったらバレるだろう。私一人でやった方が確実だ」
「ここまで来てムスイ一人で行かせられるわけないだろ! 絶対に俺たちもついていく!」
「うんうん!」
う~む・・・・・なかなか頑固だ。仕方がない、嘘をついて2人を巻くか。
「コホン、実はこの近くに魔王城の中につながる隠し通路があってだな、そこを通っていくつもりなんだよ。だからそれほど危険でもないし、むしろ一人の方が安全なんだ。」
「・・・・・その隠し通路ってどこにあるんだ?」
「ほら、あそこ。あそこに絶壁の近くに大きな木があるだろ? あのあたりに・・・・・・」
(シュン!)
「どこだ? どのあたりだ? あの2つ並んでいる大きな木か?」
そういってシュートとサクヤは振り返るが・・・・・
「あれ? ムスイは?」
「ムスイがいない・・・・・、し、しまった! 別の場所に隠し通路があるんだ! サクヤ、探すんだ!」
「うん!」
シュートとサクヤはムスイが使ったであろう隠し通路を探し回る。
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一方、ムスイは・・・・・
(シュン!)
(!!?? こ、ここは・・・・・)
ムスイはどこか別の場所に飛ばされていた。だが、ムスイは気づく。こんなことができるのは「女神」くらいだろうか。もしくは・・・・・
「はじめまして、ムスイ」
悪い予感が的中した。
「私が魔王だ」
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