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■■ 空の旅
日が登り、サクヤとモコモコさんが起きた。そして、昨晩と同じように、魔王が朝食を用意してくれた。俺とサクヤ、モコモコさんは美味しくいただく。
サクヤとモコモコさんの位置ではわからないのだが・・・・・魔王の顔が緩んでいる。ビックリするほどニタニタしている。モコモコさんを見ながら。なぜそんな表情でモコモコさんを見ているのだろうか・・・・・。あまりにも不気味で、目のやり場に困る。
いや、・・・・・もしかして魔王はモコモコさんのことが好きなのだろうか? 昨日会ったばかりなのに? そもそも、魔王はスライムでは無いのか? スライムが人を好きになったりするものなのだろうか? 魔王の考えていることはいまいちよくわからない。
「ごちそうさまでした」✕3
俺たち3人は朝食を食べ終わった。
「魔王の食事もこれで最後だと思うと名残惜しいね」
「とっても美味しかったね」
「これからまた長い旅になるな~。2人とも、準備はできているか?」
「うん」
「・・・・・」
サクヤはいつも通りだが、モコモコさんの顔が暗いような?
「半日ほど歩いたところに村があるから、そこで馬車を売ってもらえないか相談してみよう」
そう言うと、魔王が制止した。
「いやいやいや、私が国まで送ってあげるよ。元々そのつもりだったんだ」
「送るって、どうやって?」
サクヤが聞く。
「外に乗り物を用意しているよ」
「乗り物?」
俺たち3人は外に出た。
すると、外には紐でつながれた大きなかごが置かれてあった。
「乗り物って、これ?」
「そう。これ」
「これでどうするの?」
「こうするんだ」
すると、魔王の背中から黒くて大きな翼が生えてきた。
「私が飛んで、これにお前たちを乗せて、国まで送っていくってことだ」
「お、おおお・・・・・」
「まさか羽根を生やして飛ぶことができるとは・・・・・」
「ふっふっふ、すごいだろう!」
「こ、これに乗って、空を飛ぶのか?」
「そうだ」
「・・・・・」
魔王は得意げだ。しかし・・・・・本当に大丈夫なのだろうか? これに乗って空を飛ぶ? 落ちたらどうするんだ?
「それじゃあ、3人ともこの中に入って。国までひとっとびで連れて行ってやるから」
俺たち3人は顔を見合わせる。サクヤもモコモコさんも不安そうだ。やはり怖いよな。安全が確保できているようには見えない。どう考えても危険だ。仕方がない。ここは俺から魔王に・・・・・。
「よっ!」
「ほっと! うん、これでいいの、魔王?」
「ああ。ん? どうした。シュートも乗ってくれ」
「・・・・・」
2人とも乗ってしまった・・・・・。本気か? 怖くないのか? かなりためらわれるのだが・・・・・。俺は渋々と乗り物に乗った。
え? これで本当に飛ぶのか? 魔王が俺たちをかついで? 空を? 俺はかなり動揺した。サクヤはキョロキョロしている。これからどうなるんだろうとワクワクしているかのようだ。モコモコさんは少し不安そうだが落ち着いている。
「よ~し、それじゃあ飛ぶぞ。最初は揺れるだろうからしっかりと捕まっておいてくれ」
「わかった✕3」
「はっ!」
魔王は背中の翼を大きく羽ばたかせた。するとグ~ンと天地が逆になったかのように、空に吸い込まれるかのように俺たちは上空へと舞い上がった。今までに経験したことが無い感覚だ。俺たち3人は必死になって乗り物にしがみついている。
そして、バッサバッサと空を飛び始めた。
■■ 神様の思惑
「うわ~、凄い! これが空からの眺めか~!」
「ほんと! こんな景色初めて見たね!」
大きな黒い翼で羽ばたく魔王。そんな魔王につるされ、俺たちは空を飛んでいる。2人は景色を見てとても楽しそうだが、俺は、この高さと揺れる地面にどうしてもなれない。
「魔王、悪いね。長旅につき合わせちゃって」
「長旅って言っても国まで1時間かからないと思うぞ」
「え? そんなに早く着いちゃうの?」
「空を飛ぶと早いからな~」
「ほえ~」
サクヤは相変わらず魔王と親しく話をする。
「このバッグって、魔王の荷物だよね? 私たちよりもたくさんの荷物だけど、中に何が入ってるの?」
「ん? ああ、あの城にはもう戻らないからな。旅に出ることにしたんだよ。お前たちを送り届けた後は、神様のところに行く予定だ」
「おお~、確か魔王の娘さんだったよね」
「そう、3000年ぶりの再会なんだよな~」
「3000年もあってなかったの?」
「そうなんだよ」
「それなら、娘は怒っているんじゃないの~?」
それを聞いて、魔王は高らかに笑った。
「ハッハッハ! 実は、そうなんだ・・・・・はぁ・・・・・」
そして、絶望的に落ち込んだ。
「え? 怒ってんの?」
「怒っているだろうな~・・・・・間違いなく。私は自分の娘を3000年も放置しちゃったからな~・・・・・。というか、3000年前にもう寿命で死んでると思ってたくらいだ。まさか神様になっていたとはな~・・・・・」
「お、おう・・・・・」
さすがのサクヤも言葉が無い。モコモコさんも顔をそむける。俺もフォローのしようが無い。
「神様は、シュートに私の剣を渡したんだろう?」
「あ、ああ。そうだな」
「なぜ神様がその剣をシュートに渡したかわかるか?」
「神様は『その剣で魔王を倒しなさい』と言ってたぞ」
「そ、そんなことを言ってたのか・・・・・はぁ・・・・・。まぁ、私はレベル4700だ。レベル100程度が束になってかかってきても私には勝てない。その剣があったって状況は変わらないんだ」
「それじゃあ、どうして神様はそんなことを?」
「その剣は、娘から私へのメッセージだったんだよ。『お父さん! 私に会いに来なさい!』ってね。つまり、シュート達は伝言板に使われたってことだ」
「そ、そういうことだったのか・・・・・」
確かに、俺ではどうやっても魔王に勝てるはずがなかった。まさか神様から伝言板として使われていたとは・・・・・。
「そう考えると、神様も酷いね」
サクヤが少しとげのある言い方で不満を口にした。
「神様とはそんなものだ。むしろ『神様の伝言板として役に立て光栄です』と思わなければいけないところだぞ」
魔王は少しチャカすようにそう言った。そのため、サクヤは尚更怒った。
「う~ん・・・・・やっぱり納得いかない! だって私たちは命がけだったんだよ! なんだか神様からも魔王からも遊ばれているようで、なんか腹立つ!」
そう言って、サクヤは頬を膨らませブスくれる。気持ちはよくわかる。俺も神様の対応はあまり良いとは思えない。
「ま、ある意味、世の中の仕組みとも言えるかな」
「え~、どういうことよ~!」
サクヤはとても不機嫌だ。
「そうだな・・・・・、サクヤは旅の途中にイノシシと遭遇したら倒すんじゃないか? そして、晩飯にするんじゃないか?」
「う~ん、たぶんそうするね」
「人がイノシシを倒すのも、食べるのも、人の方がイノシシよりも上の存在だからだ。そして、人はイノシシを殺しても、食べても、罪悪感を感じることはない。命というものは、上か下かで、その価値が決まっているものなんだ。こう言えば、なんとなくわかるんじゃないか?」
「ああ・・・・・」
なるほど、そういうことか・・・・・
「神様は世界の頂点に君臨する存在だ。神様から見れば、人族はだいぶ下の存在となる。ま~、神様は善良だから、人族を殺したり食べたりはしないがな。つまり、人族がイノシシの気持ちなどまったく考えずに殺して食べるように、神様だって、人族相手にいちいち気を使ったりはしないのが普通だってことだ」
「う~ん、確かにそうだね・・・・・」
さっきまで怒っていたサクヤのテンションはだだ下がりだ。
「魔王の話を聞いていると、価値観が崩壊してくるな。人族はこの世界を我が物顔で考えすぎているのかもしれない」
「そうだね・・・・・。それに、魔王のことを魔王っていうのも間違いだったよ。これからは様をつけて魔王様って言うね」
「いや、魔王でいいよ。私は細かいことにはこだわらないからね。それに、もう国が見えてきた」
俺たちは魔王が見ている方向の地平線を見る。すると、うっすらと国が見えてきた。
「あ、ホントだ! もう着いたんだ! 早い早い!」
話しをしていたらあっという間だったな。とうとう故郷に戻ってきたんだ。
サクヤはとても嬉しそうにしている。それなのに・・・・・モコモコさんの表情はとても暗いものになっていた。モコモコさんは朝から元気が無いように見える。何かあるのだろうか・・・・・。