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■■ 別れ
魔王が空を飛んで運んでくれたおかげで
俺たちはすぐに国に戻って来ることができた。
「これ以上近づくと兵たちに見つかる。
ここで降りよう」
そう言って、魔王は国から少しはなれた荒野に俺たちを下ろした。
「ふ～、やっとついた、ありがとう魔王」
俺は周囲を伺う。
ここは旅に出た時に通った場所。
間違いなく、俺たちは国に戻ってきたんだ。
「それで、魔王さん。
これからのことなんだけど・・・・・」
今までずっと黙っていたモコモコさんが魔王に話しかける。
「ん？ ああ、そうだね。
モコモコには家族はいるのかい？」
「ううん、私もシュートくんもサクヤちゃんもみんな孤児なの」
「そうか。それなら、あっておきたい人は？」
「お世話になった人はいるけど、合わない方がいいかな」
「国にしばらくいても構わないんだよ」
「ううん、戻ってやることは特にないの。
だから・・・・・」
「そうか、わかった」
俺とサクヤは２人の話を黙って聞いていた。
だが、嫌な予感がする。
「え？ どういうこと？」
不穏な空気を感じて、サクヤが先に聞いた。
「実は私、魔王さんと一緒に旅に出ることにしたの」
「ええ！」
「どういうことですか、モコモコさん？」
モコモコさんは少し困った表情をした。
考えてみればおかしいことは幾つがあった。
俺とサクヤは戦闘で魔王に閉じ込められたが、
モコモコさんはそうではなかった。
おそらく、この時に２人で何か話をしたんだ。
ここに来るまでもモコモコさんは暗い表情だった。
魔王になにか脅されている？
だからモコモコさんは暗い表情をしていた？
「魔王、お前！」
「ち、違うのよ、シュートくん！ 違うの！
私が魔王さんについていきたいのよ！」
モコモコさんはそう言う。
どういうことだ？
魔王に脅されているからそう言っているのか？
「ずっと考えていたの。
魔王さんに・・・・・旅についてきてほしいって頼まれて。
私、私ね、小さいころから、ひらめきがあったのよ」
「ひらめき？」
「うん。運命を決める瞬間って感じかな。
私にはお父さんもお母さんもいなくって、魔族に殺されていて
それでも大好きな裁縫をしていればそれで幸せだった。
それで生きていければ問題なかった。
でも、訓練場で魔族と戦うための練習をしている人たちを見て
『私がやるべきことはこれだ！』って思ったの。
それ以降はずっと夢中になって戦う練習をしてきた。
冒険者になって、シュート君とサクヤちゃんと出会った。
２人と出会った時も
『２人と出会うために冒険者になったんだ』って思った。
そして、私は魔王さんと出会った。
その時・・・・・その時、私、全てがわかったの。
『私は魔王さんと出会うために生きてきたんだ』って」
モコモコさんの目から涙がほおを伝った。
モコモコさんの本心だと感じ取れる。
しかし・・・・・
「でも、モコモコさん。モコモコさんは朝からずっと元気がなかった。
本当は行きたくないんじゃないんですか？
俺やサクヤと一緒に国に戻りたいんじゃないんですか？」
モコモコさんは俺の方を見て、首を振った。
「ううん、違うの。
私はシュート君とサクヤちゃんと別れるのが辛かったのよ。
私にとって２人は誰よりも大切な家族だった。
これからもずっと３人仲良く生きて行くんだって思ってた。
だから・・・・・別れたくないと思って、悲しかったの」
そう言うことだったのか・・・・・。
俺にはモコモコさんを止める方法は無いように思えた。
「本当に、行っちゃうの？」
サクヤはモコモコさんの手を取りそう言った。
目にいっぱいの涙をためている。
「ごめんね、サクヤちゃん・・・・・」
「モコモコちゃん・・・・・」
２人は抱き合い、別れを惜しんだ。
～～～～～
抱き合っていた２人は離れる。
モコモコさんが、横を向いて待っている魔王に話しかける。
「魔王さん、準備はできました」
「本当にいいのか？」
「はい」
モコモコさんは先ほどの乗り物の中に入る。
「シュートくん、サクヤちゃん、元気でね」
「モコモコちゃん、はやく戻ってきてね」
「うん」
俺はモコモコさんにどう声をかければいいかわからない。
まだ、引っかかるものがある・・・・・。
「魔王」
「なんだ？」
「・・・・・モコモコさんを頼んだぞ」
「ああ、わかった」
俺は魔王たちに背を向け、そう言うのがやっとだった。
魔王は翼をはばたかせ宙に浮く。
そしてもモコモコさんと一緒に空高く舞い上がった。
「シュート君～！ サクヤちゃ～ん！
幸せになってね～！」
「モコモコちゃんも元気でね～！」
こうして、魔王とモコモコさんは飛び去って行ってしまった。
俺とサクヤは黙り込む。
何だか、心にポッカリと穴が開いてしまった気分だ。
「・・・・・もっと魔王と話しをしておけばよかったな」
「モコモコちゃんのことが心配？」
「ああ、それもあるが・・・・・」
魔王の話しは不思議なことが多かった。
それが正しいのか間違いなのかは俺にはわからない。
でも、俺が今まで考えもしなかったようなことばかりで
不思議な感覚にしてくれた。
モコモコさんは魔王についていきたいと言っていた。
何だか、俺もそんな気分にさせられていた。
「あの二人には多くの苦難が待ち受けている。
でも、それを乗り越えて必ず幸せになれるんだよ」
「お前の予言か？」
「そう」
「その口調だと、モコモコさんが魔王のことを好きみたいだな」
「私は最初から気づいてたよ」
「そうなのか・・・・・」
俺は朝食の時に、魔王がモコモコさんを見ていた時の表情を思い出す。
とても幸せそうな顔をしていたな・・・・・。
いや、あの表情を幸せそうだと形容していいものなのだろうか？
そんなことを考えていると、なんだか笑いがこみあげてきた。
「フフフ・・・・・それじゃあ、国に戻ろうか。
王様に魔王を討伐したと報告しないといけないしな」
「え？ 討伐したことにするの？」
「魔王がそうしろって」
「そうなのか～」
「そして、２人で住む場所を決めないと。
俺たちの結婚式の準備もあるしな」
そう言うと、サクヤは少し顔を赤らめた。
「そ、そうだね。やることはいっぱいだね。
そうと決まれば、早く国に帰らないと！
よし！ シュート、走ろう！」
「え？ いや、そんなに急がなくても・・・・・」
「いいからいいから、早く早く～♪」
サクヤは元気に走り出す。
急に元気になったな・・・・・。
サクヤはモコモコさんがいなくなった寂しさを誤魔化そうとしている。
そして、元気を出すだけ出した後、泣きだしてしまう。
泣くだけ泣いて、力を使い果たしたら眠ってしまう。
まぁ、そんなところか。
王様への報告は明日だな。
今日はサクヤに付き合うとしよう。
俺は楽しそうに走るサクヤを追って走った。
