晩御飯の時に、サクヤがムスイに聞いて来る。
「ねぇねぇ、お父さん、お父さん」
「誰がお父さんやねん。・・・・・で、何?」
「お父さんって、この村に来る前は何やってたの?」
それを聞いて、モコモコはピクリと反応する。そういえば昔のことはあまり聞いたことが無かったからだ。
「お父さんは▲▲村出身でね。12歳までそこに住んでたんだよ。両親は今もそこに住んでるよ」
「ふ~ん、一緒に住まないの?」
「連絡は入れたけど、今まで住んでた村の方が暮らしやすいみたいで、こっちに来る気は無いみたいだな。」
「お父さんが会いに行ってあげれば?」
む・・・・・確かにその通りだ。モコモコにも合わせてあげた方がいいだろうし。サクヤもたまにはいいことを言うな。
「そうだな。モコモコと一緒に故郷に戻るのも悪くはないな」
そういってチラリとモコモコの方を見る。
「うん、その時は連れて行ってね」
モコモコも嬉しそうだ。そういえば、モコモコと一緒に旅行に行ったことも無いなぁ。村の外と言ってもそこまで凶暴な動物もいないし、魔物だってここいらには来ない。村の中に閉じ込めてばかりというのもどうかとは思う。
それに、モコモコと一緒に旅というのも悪くはない。ムスイはモコモコと一緒に旅をしている光景を妄想し、ウヘヘと笑みを浮かべる。
そんなムスイを見て、サクヤは聞いてみる。
「お父さんってモテたの?」
サクヤがなんか聞いて来る。
「・・・・・何をいきなり」
「お父さんって、この村に来て、お母さんに出会って、好きになって、結婚したんだよね? 故郷には好きな人いなかったの?」
結婚ではなく婚約だと言いたい。
「そんなものはいない。お父さんはお母さん一筋だ」
「ほんとに? 本当は故郷に昔の女がいて、だから連れていけないと悩んでいるんじゃない?」
なんという嫌な追求だ。モコモコが変な勘違いをしたらどうする!? 私とモコモコの関係を破壊する気か?
「そんなもの、断じていない」
そうハッキリ主張するも、サクヤは
「ふ~ん・・・・・」
と言いながら面白そうに私の顔を見ている。困った奴だ。
「お父さん、モテなかったんでしょ?」
「!!!!!!!!!!」
私の驚きの表情を見て、サクヤはひらめく。
「わかった! モテないお父さんが、違う村にやってきた。そして、お母さんと出会った。だけど、モテないから女の人とどう対応していいかわからなくて、変なことしちゃんて、最初は嫌われてたんでしょ!」
サクヤは「謎は全て解けた!」と言わんばかりにノリノリだ。
「いや、そうじゃなくてね、サクヤちゃん・・・・・」
モコモコが割って入ろうとする。実際は、モコモコが最初からムスイを恐れていた、というのが真実ではあるが、そんなことを話しても私の名誉は回復しない。むしろ、もっと評価が下がる。話す意味が無い。
それで、私はモコモコを制止し、サクヤに話して聞かせた。
「サクヤは勘違いしているようだが、お父さんは前の村ではとてもモテていたんだよ。それはも~、毎日女の子たちから追いかけまわされるほどにね」
腕を組み、眼をつむり、胸を張って話をする私。
「うそだ~」
「嘘ではない。私の故郷の村は50人くらい住んでいたが、そのうち40人くらいが10~16歳くらいの娘さんでね。私は毎日その40人から追いかけまわされていたものだよ」
「ええ~!」
ムスイは突拍子もない話を始めた。しかし、割と事実である。
「あまりにも美少女が多い村だったのでね、幾つもアイドルグループが結成されていたよ。近隣の村や町からは追っかけの男たちがたくさん集まっていたくらいさ」
「しかし、そのアイドル達はみんな私にメロメロでね。私を奪い合うように、毎日毎日みんなで喧嘩していたな~。まったく、困ったものだったよ」
「おお~、すごいな、お父さん」
サクヤは感心する。こっちの方が面白いと思ったからだ。
「そのため、村では”モテマックス”という言葉が生まれてね。ムスイと言えばモテマックス、モテマックスと言えばムスイと言われるくらいに、お父さんはモテモテだったんだよ」
「おお~、モテマックス!」
サクヤは感心している。
「だからね、決しておとうさんはモテなかったわけじゃないんだ。その点、しっかりと頭の中に叩き込んでおいてくれ」
「うん、わかった!」
サクヤは素直に応じた。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
サクヤはこの話を碁会所のみんなに話した。
「私も若いころはモテマックスだったね~。それでじいさんから結婚を申し込まれたんだよ」
「何を言うんじゃ、結婚を申し込んだのはお前だろ」
「何言ってんだい! もう忘れちまったのかい?」
「まぁ待つんだ、あのころ一番モテていたのはワシじゃったろ」
「いや、お前はモテてないだろ」
「私が村一番の美少女だったねぇ」
「村で一番の美少女だと言われていたのは私だよ!?」
「いや、私!」
なんだか大騒ぎになってしまった。
それを頬杖をつきながら眺めるサクヤ。そして「昔はみんなモテマックスだったんだな~」と思うのだった。
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