私の名前はムスイ。4人パーティーのリーダーをやっている。今回は「魔物退治」の依頼を受け、少し離れた場所の森の中へとやってきた。

ここはすでに「魔族の領土」となっている。「魔族の領土」には瘴気がただよっており薄暗くなっているからわかりやすい。この「瘴気」は短期間なら害はないのだが、人間が長期間いると命を落としてしまう。こうなっては、このあたりに住んでいる人たちは撤退するしかない。

「少し前までは普通の森だったんだけどな」

こいつがウチのパーティーの前衛を務める剣士。攻撃も防御も安定してうまく、安心して前衛を任せられる。ウチのパーティーでは前衛が一人であるため、こいつの負担は結構大きい。

「そうね。魔族が領土拡大を狙っているのかもしれない。用心しないと。」

こいつは魔法使い。普通の魔法使いと比べると比較にならないほど優秀だ。普通の奴が使えない魔法を幾つも使いこなしている。

しかし、魔法で身長をカサマシしていたり、胸を大きく見せたりと、どうでもいい方向で見栄っ張りでもある。魔力の無い奴は気づけないからやりたい放題だ。

「う、う~ん・・・・・」

こっちで緊張しているのが将来の私の妻である女11だ。私の人生全てをささげている愛すべき存在だ。

今回の冒険は、魔物退治をやったことが無い女11に経験を積ませるためにおこなっている。やはり初めての魔物退治ということもあり、かなり緊張しているようだ。

「大丈夫。安心して。私がそばにいるんだから、魔物は5m以内に絶対に近寄らせない。だから何の心配もしなくていいよ。」

そういって私は女11を抱きしめ、ほっぺにスリスリする。

「こら~! 冒険中にイチャイチャするな~!」

女魔法使いは女11を取られまいと、ムスイを女11から引き離そうとする。

「ん!!」

魔物の気配だ。私は周囲を見渡す。結構いるな。5匹くらいか? みんなも気づき始め、臨戦態勢をとる。

魔物は私たちの周囲を囲み始めた。

◆ワーウルフとの戦闘

現れたのはワーウルフだ。囲まれてしまっては前衛も後衛もない。4人は一ヶ所に集まった。向かってきた敵をなぎ倒していくしかない。

「女11は私が守る。お前たちは前に出過ぎないようにして、敵を一体ずつ倒していってくれ」
「OK」
「わかった」

女11は怯えている。

「大丈夫。今回の敵は近接攻撃タイプだ。だからむしろ楽な相手だよ。何も心配することは無い。それじゃー、弓を持って構えてごらん。」

女11は弓を構える。

「10mほどの距離に来たら弓を射る。練習でやった通りやればいい。どうせ当たらないと思って気楽にやっていいよ。私が全て倒すから。」
「それじゃー私の分も全部倒してよー」

女魔法使いがなんか言い出す。

「自分のノルマはちゃんとこなしなさい」
「ハハハ」

みんなリラックスしている。当然だ。本当に大した相手ではない。これくらいの敵は何度も倒してきた。

「きた!」

10匹のワーウルフが一度に襲いかかってくる。

男剣士は剣で次々とワーウルフと斬り付ける。瞬時に3匹倒しきる。

女魔法使いも魔法攻撃でワーウルフを3匹倒す。

ムスイの方は、女11の弓にまかせているが、当たらない。

「大丈夫。おちついて射れば絶対に当たる!」

女11は「冷静に冷静に」と自分に言い聞かせ・・・・・矢を射る! そして、当たった! そして、ムスイは残ったワーウルフを瞬時に剣で3匹斬り倒した。

これで10匹全て倒すことに成功。

「はぁ~~~・・・・・」

女11はヘナヘナと座り込む。

「お~頑張ったね~、ヨシヨシ」
「怖かった~(涙)」

涙目の女11を抱きしめ、ほっぺをスリスリしあう2人。

「またいちゃいちゃし始めたよ」
「でも、初めてにしては良かったんじゃないか。魔族退治初戦でワーウルフを倒すなんてなかなか無いよ」
「え、そう? えへへ」

男剣士に褒められ嬉しそうに笑う女11。これで緊張もほぐれただろう。後は回数をこなせば自信もついてくる。そうなれば、女11も立派な冒険者だ。

その後、私たちパーティーは何度も魔物を倒し、女11も20体の魔物を倒すことに成功。余裕も出てきたし、これなら何とかやっていけるだろう。

私としては、自分の愛する人を冒険者にするのは気が進まないのだが。

◆村への帰還

早めに切り上げ、夕方、村へと帰ってきた。

私が住んでいる家は日暮れまで「碁会所」として解放されている。村人のほとんどはいつもそこに集まっている。

「あらあら、お帰りなさい。今回の冒険はいかがでしたか?」

この人は「女神さま」だ。言葉の通り、本物の女神さまだ。しかし、誰も女神さまだと気づいていない。

「いつも通りですよ。ところで、また魔王が来ているってことですか。」
「そういうことになりますね。」

碁会所の方に行くと、「魔王」がじいさんたちと一緒に囲碁を打っている。かなり真剣でこちらを一切気にかけていない。

もちろん、言葉の通り、本当に魔王だが、誰も気づいていない。

「魔王、調子はどう?」
「・・・・・・・・・。」

返事が無い。ただの屍のようだ。

「いや~、魔王君はいつも真剣に打ってくるね~。ぜんぜん強くないんだけどね。弱い若者を倒すのは気分が良いよ。はっはっは。」
「だが、負けても向ってくる根性が素晴らしいな」
「うむうむ、彼は必ず囲碁界をしょって立つ男になるぞ」

魔王さま、大人気だな~。

「おや、ムスイ、帰ってきたのかい、お帰り」
「今日はおそかったな」
「父さん、母さん、ただいま」

建物は「碁会所として使われている私の家」、「女11の実家」、「父さん母さんの家」の3つが隣同士、行き来しやすいようになっている。

「私もおじいちゃんとおばあちゃんのところに行ってくるね」
「ああ、わかった」

いつも、おやつの3時ごろからだんだん碁会所に人が集まってくる。そして、夕方ごろには村中のみんなが集まってきて、男は大体囲碁をやっている。道具を持ってきてDIYをやっている者もいる。女は料理を作っていたり、裁縫していたりしながら、しゃべくりまわっている。ここで日暮れまで過ごすのがこの村の定番だ。

そして、日暮れ時になると、ここで食べる者もいれば、家に持って帰って食べる者もいる。

食事が終われば女11はおじいさん、おばあさんの家に。

父さん、母さんは自分の家に。

私の家には男剣士と女魔法使いが泊まって寝ている。

魔王と女神さまは毎回天界に戻っている。

こうして、この村の一日が終わる。

私がこの異世界に転生して、いったい何度生まれ変わったことだろうか。まぁ、悪くはない人生だ。これからどうなっていくかはまったくわからないが、なんとかやっていけるだろう。

私は夜空の星々をボ~ッと眺めながら、そんなことを考えていた。

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