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■■ ムスイ、異世界へ転生された
眼を開けると、目の前に2人の人物がいた。
「ムスイ~、お父さんだよ~」
「お母さんよ~」
目の前で幸せそうに笑っている2人の存在がいるが・・・・・。
(お父さん? お母さん? これは一体どういうことだ? それに、体が思うように動かない。さっき、女神を名乗る詐欺師が変なことを言っていたが・・・・・)
現在どういう状況なのか、まったくわからない。
お母さんと名乗る人物が私を抱き上げる。私を優しく抱きしめ、頬にスリスリしてくる。温かいぬくもりを感じる。
(こ、これは・・・・・女性に軽々と持ち上げらてしまった。こ、これは・・・・・信じられないが、私は赤ん坊になっているのは間違いなさそうだ。・・・・・ということは、さっきの女神は本物だったということか? 確か、女神は私が「パソコン画面を殴って死んだ」と話していたな。う~む・・・・・おそらく、それは事実だ。うっすらとそんな記憶がある。つまり・・・・・本当に私は死んだのか? そして、生まれ変わったということなのか!? そんな馬鹿な!? そんなことが本当にありえるのか?)
私はかなり混乱した。
こっちの世界の父さんと母さんは私をベッドに置いた。そして、二人、少し離れた場所に腰を下ろすと、抱きしめあい、お互いスリスリスリスリし始めた。
なんだあれは? 異世界の文化か? よくわからんが、二人とも幸せそうだな。よくわからんが、あれが異世界の愛情表現なのだろうか? よくわからんが。本当によくわからんぞ。
何にしても、これからどうすればいいのだろうか・・・・・。
(あ、あれ? 死んだ? 私はあっちで死んだってことだよな? そうなるよな? ・・・・・ええ? そ、そんな馬鹿な!? あっちで死んだ? 私が? それじゃあ、母さんは? 母さんはどうなるんだ?)
私は母さんの顔を思い出す。私はマザコンだった。
(そんなバカな! 大学を卒業して、働けるようになって、やっとお金をがんがん稼げるようになったというのに! やっと親孝行できると思っていたのに! それなのに、それなのに、私はパソコンをぶん殴って人生終了してしまったというのか?)
あまりにも情けない事態だということに気づいた。
私は病院のベッドに寝かさ、白い布をかぶせられている自分をイメージした。そして、その場にかけつける母さん。「ムスイ~!」と言って私を抱きしめながら泣いている。
(このようなことになってしまうというのか! なんと、なんと親不孝なんだ~!)
しかし、現実は魔王様のせいでもっと酷いことになるということを私は知らない。
(母さんごめんよ! 何もできずにアホな死に方をして、本当にごめんよ!)
私は心の中で母さんに謝りながら、泣いた。そして、母さんに会いたい、母さんに会いたい、と心から思った。
「オギャ~! オギャ~! オギャ~!」
私のマジ泣きを聞いて、両親が私のそばにやってくる。
「お~よしよし、泣かなくていいのよ~。いい子いい子」
母さんがなんとかなだめようとするも、私は泣きやまない。それを見かねた異世界の父さん。
「よし、変わろう、俺が高い高いしてみるよ」
今度は異世界の父さんに抱っこされた。そして、高い高いされた。いやいや、高すぎるだろう。さすがにドン引きした私は、異世界の父さんを見る。
(・・・・・そういえば、あっちの世界の父さんを忘れていたな~。当然、泣いている母さんの横に父さんだっているはずだよな~。いかんいかん、父さんをカヤの外にしてしまうだなんて。外で働き苦労してお金を稼いでいるというのに、肝心な時に存在を忘れてしまった。考えてみると、男ってのは損な役回りだよな~、まったく。父さんと酒でも飲みながら、もっといろいろなことを話しておくべきだったな~)
そんなことを考えていたら、なんだかおかしくなって、笑ってしまった。
「キャッキャッ! バ~プ~!」
「お、ムスイが笑ったぞ!」
「あなたのあやし方が上手かったのね、うふふ」
ま~、悩んでいても仕方がない。この異世界で生きて行くしかないのだからな。それならば、やるべきことを考えてしっかりと生きて行かなければいけないな。
こうして、私はこの世界で強く生きて行くことを心に決めた。
(しかし・・・・・、ここでなんやかんや言っているこの2人が私の両親と言うことだよな・・・・・。私、23歳だったんだけどな~。この人たち、一体何歳なんだろう。ちゃんと親だと思えるかな~・・・・・。
私は、そんなことを考えながら、新しい両親を見つめていた。
■■ ムスイは神だった
天元にて、魔王は映像でムスイを見てつぶやいた。
「コイツが、転生者か・・・・・」
魔王の異変に気付き、女神が心配する。
「どうかされましたか、魔王様?」
そういう女神に、魔王はこう言った。
「ふ~む・・・・・こいつは人ではない。神だ」
「神、ですか?」
「ああ、神だ。転生者は必ずしも人族になるわけではない。魔物になることもあれば、魚や昆虫になることもある。ムスイという男は、人族の肉体でありながら神としてこの世界に転生されたようだな」
魔王はそう言うが、女神は映像でムスイを見ながら首をかしげる。
「しかし、私には人族に見えますが?」
「肉体は人族であるため、お前には人族に見えるのだろう」
「そのようなことがあるのですね」
「ああ・・・・・だが・・・・・」
魔王はムスイを見つめ、納得がいかないというような顔をする。そして、そのまま黙り込んでしまった。女神はそんな魔王を見て驚いた。今まで魔王がこんな表情をすることが無かったからだ。
(なんだか楽しいことが始まったような気がする)
女神はそんなことを考えながら、密かにほくそ笑んでいた。