最近、「塩」の値上がりがすごい。海の近くの領土を魔族に奪われてしまったため、塩の流通が難しくなってしまったというのが原因らしい。
アンス村はムスイがうまく経営してくれているのでとても裕福になっている。塩が高くなっても問題なく購入することができる。でも、他の村や町の人たちは本当に困っているようだ。
そこで、ムスイは塩を自分で取りに行く計画を立てた。アンス村から海まで100km以上はある。行けない距離ではないが、その間、ずっと森の中を通らなければいけない。誰も通ったことが無い森の中は足場が悪く歩くのが難しい。だから、アンス村から海を目指そうだなんて考える人は今まで誰もいなかった。しかし、ムスイは体力に自信があった。
「私もついていきたい!」
モコモコが何か言いだした。
「いやいやいや・・・・・モコモコには無理だよ」
「私、近頃何もやってないから、皆の役に立ちたいの!」
モコモコは必至だ。
モコモコは先日の「弓の特訓」で手がボロボロになってしまっている。料理も裁縫も洗濯もろくにできない。それで、気に病んでいるようだ。
「いや・・・・・しかし・・・・・」
「お願い! 私だけ何もしていなくてつらいの!」
う~む・・・・・困った・・・・・。
「・・・・・一週間くらいはかかるよ?」
「大丈夫! 頑張るよ!」
「・・・・・・・・・・」
危険は無いと思う。だけど、モコモコの体力が持つとは思えない。正直、絶対に連れていきたくはないのだが・・・・・モコモコの気持ちもよくわかる。手を使わなくてもできる仕事を真剣に考えてあげるべきだった。
仕方が無いので、私はモコモコと2人で海を目指すことにした。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
(モコモコ視点)
出発の朝、ムスイは凄い荷物を抱えている。出発のための準備は全てしておくと言ってたけど、こんなに必要なものが多いんだ。私の荷物も持ってくれているし。一週間もこんなに大きな荷物を背負って歩けるのかな? 私は少し心配になった。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
私たちは森の中を歩きはじめた。ムスイはコンパスを見ながら方向を確認。森の中は同じ景色がずっと続くので方向がわからない。コンパス以外に頼るものが無い。
「とりあえず川を見つけよう。川に沿って歩けば海まで続いているだろうから、道としてもわかりやすいしね。」
本当に森の中は歩きにくい。奥に行けば行くほど、どんどん歩きにくくなってくる。地面が柔らかくて一歩一歩がとても重く感じる。ムスイは気にかけて歩きやすい場所を選んでくれているけど、それでもきつい。これが一週間も続くのか。私は甘く考えすぎていた。
でも、こんなところで弱音を吐くわけにはいかない。
ムスイは時々振り返って私を見ている。疲れが顔に出ているのかな? スピードも遅いのかもしれない。一生懸命歩か無いと。
お昼も含めて、休憩は5回あった。とてもゆっくり進んでいる。こんなにゆっくりでいいんだろうか?
日が暮れてきた。なんだか今日は日が暮れるのが早いような気がする。
「木に囲まれているから日が暮れるのも早いんだよ。今日はこのあたりで一晩過ごそう。モコモコはそこに座って料理の準備をしていて」
ムスイはカバンを置いて森の中へ。私はムスイが置いていったカバンの中を見てみる。色々と食べ物も持って来てたんだ。お鍋と食材を出す。
ムスイは木や落ち葉を拾ってきた。それで焚火をし、料理を作る。
本当に疲れた。喋る元気もない。
「疲れたろう。早めに寝ようか。」
ムスイは草をたくさん集めてきて、その上に布を引き、簡単なベットのようなものを用意してくれた。私はそこに横になり、毛布をかぶった。
「・・・・・ムスイは寝ないの?」
「私はもう少し起きてるから、安心しておやすみ」
そう言って私の頭をなでる。
焚火を見つめているムスイを見て思う。ムスイは以前3年間も森の中にいたんだ。こんなに静かで寂しい所に。たった一人で。そのことを考えると、胸が締め付けられるようで、涙が出てきた。私はそのまま布団をかぶって眠った。
~~~~~
次の日も歩き詰めだった。荷物は全てムスイが持ってくれているけど、私が足を引っ張っている。ゆっくり歩くムスイについていけない。ただただ、きつかった。そして2日目が終わる。
~~~~~
3日目、一晩寝ても疲れが取れなかった。もう動ける気がしない。だけど、今日も一日中歩かなければいけない。もう何も考えられなくなっていた。
「・・・・・波の音が聞こえてきたね」
「・・・・・え? なに?」
「よく頑張ったね、もう海の近くまで来ているよ」
そう言ってムスイは私をお姫様抱っこする。
「え? なになに?」
「もう近くだから、一気にいこう」
そういってムスイはすいすいと走り出した。こんなに足場が悪いのに、荷物も多いのに、私を担いでいるのに、よく走れるなとビックリする。それに、不思議と進藤も少なく、ゆりかごの中にいる気分になれる。なんだかとても心地よくて、私はそのまま眠ってしまった。
気がつくと夕方だった。いつの間にか眠っていたようだ。私には毛布が被せられており、日が当たらないように木の棒と布で日陰になっていた。
ムスイはどこだろう? あたりを見渡すと・・・・・・・・・・夕日と、広大に広がる湖が広がっていた。これが海だろうか。夕日と海がキラキラ光っていてとてもきれい。今まで見たことが無い景色だった。
私はその景色にずっと見とれていた。
「夜は冷えるよ」
そういってムスイが肩に毛布を掛けてくれた。ぜんぜん気づかなかったけど、もう夜になっていたんだ。
「すっごい綺麗だった・・・・・」
「うん、いい景色だったね。それをモコモコと一緒に見れて良かったよ」
なんだかボーっとして、現実に戻ってこれない気分だ。あんなにきれいな景色が見れるだなんて。
「ありがとう、ムスイ、私ここに来れて本当に良かった」
ムスイは嬉しそうに笑った
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次の日の朝になって、私はものすごい量の「塩」ができていることに気づいた。私が景色に見とれている間に作っていたんだ。
「景色もきれいだし、もう1日くらいゆっくりしようか?」
私は海を見つめた。ここに来るのは本当に大変だし、もしかしたらもう二度と来れないかもしれない。
「・・・・・午前中だけ、午前中だけここにいたい」
「うん、じゃ~、午前中だけノンビリ過ごそう」
私は午前中、砂浜と大きな海と空を満喫した。
お昼ご飯を食べている時に、私はムスイに提案した。
「ねぇ、私たちの結婚式はここでしない?」
「・・・・・え? いや、でも村の人たちがここに来るのは無理があるからねぇ」
「もちろん、村でも結婚式をするけど、ここでムスイと二人きりで結婚式をやりたいの」
「そうか・・・・・それも悪くないね」
「うん、約束だからね」
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午後から私たちは村へと歩き始めた。また3日ほど歩き続けなければいけない。頑張らないと。
4時間ほど歩くと暗くなってきた。たったの4時間だったけど、疲れた。まだ疲れが取れていないんだと思う。明日、明後日の2日間頑張れば村につくかな。2年後、またここに来ることになるし。歩けるようにならないといけないな。
そういえば、私とムスイって婚約してるんだよね? 結婚とか婚約とか真剣に考えたことなかったけど、どんななのかな? 恋人ってどんな感じなのかな? シュートくんやサクヤちゃんを見ていてもよくわからないし。ムスイは・・・・・お父さんって感じなのかな・・・・・。私にはお父さんはいないけど、たぶんいたらムスイみたいなんだと思う。そう考えると、なんだかおかしくなってきた。
「・・・・・ん? どうかした?」
「え? ううん、ちょっとムスイと出会った時のことを思い出しただけ」
「ええ! ・・・・・わ、忘れてください」
正直に話すのが恥ずかしくて、私は嘘を言ってしまった。
~~~~~
次の日も歩き続ける。足場が悪いのは相変わらずだ。でも、頑張るしかない。
時々後ろを振り向いて私を確認していたムスイだけど、ジッと見続けて動かない。どうしたんだろう?
ムスイは担いでいた荷物を地面に置くと、急に私を抱き上げた。
「ど、どうしたの?」
「少し早目に戻った方がいい」
そういって、足早に歩き始めた。
「荷物をあそこに置きっぱなしだよ?」
「村も近いし、後で取りに行くから問題ないよ」
そういってムスイは凄い速さで歩く。私が走るのよりも早いスピードでだ。村が近いならそんなに急ぐ必要はないのに、どうしたんだろう。私は不思議だった。・・・・・いや、歩いて後2日はかかるはず。村が近いとは思えない。どういうことだろう?
ムスイはすごいスピードで歩き続ける。
しばらくして、私は急に体がだるくなってきた。熱がある? 頭も痛いような? ものすごく体調が悪い。そうか、ムスイは私が病気だと気づいて、慌てて戻ろうとしているんだ。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
呼吸がきつくなってきた。ムスイは止まって、私を下ろす。
「大丈夫? 水、飲める?」
「うん、ありがとう(ゴクゴク)」
何だかもうよくわからなくなってきた。
「後3時間くらいで村につくから」
「うん・・・・・」
ムスイが走っているような気がする。でも、だんだんわからなくなってきて、私は意識を失った。
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私は自分の部屋のベットの上で目を覚ました。おばあちゃんから、熱が下がらず5日間も寝込んでいたと聞いた。今は元気になっておかゆを食べている。
「あの日、ムスイ君がモコちゃんを担ぎこんできてビックリしたよ。ムスイ君は外でずっとソワソワと円を描くように歩き続けていてね。しばらくは、ほら、あそこの窓からずっと覗いて心配していたんだよ。私が中に入っておいでって言ったんだけど、ムスイ君は”いえ、ここが私の定位置ですから”って。あれってどういう意味なんだろうねぇ。」
何だか意味が分かったような気がしたけど、私は考えないようにした。
私が大丈夫だとわかった後、ムスイはまた海に行ったらしい。そしてたくさんの塩を持って帰ってきた。おいてきた荷物はどこにあるかわからなくなってしまったらしい。
塩は町に持っていき多くの人に配られたようで、皆感謝していたとのこと。
結局、私はムスイの邪魔をしただけになってしまった。私が行かなければもっと楽だったろうに。そして私は病気になってしまった。迷惑をかけて、自分は病気になって、一体私は何をやっているんだろう。
もうムスイについて意向だなんて言わないことにしよう。私はそう誓った。
ムスイがお見舞いに来てくれた。ムスイは「一緒に旅をした出来事」を楽しそうに思い出しながら話す。それがあまりにも嬉しそうだったので、私は「またどこかに連れて行ってもらおうかな」と思った。
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