第20話目次目次

魔王を倒すために魔王城目前へとやってきたムスイ、シュート、サクヤの3人。しかし、急にムスイ一人だけが別の場所へと飛ばされてしまった・・・・・。

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(こんな魔法があったのか!?)

ムスイは動揺しつつも、身を低くし周囲をうかがう。一体ここはどこなのか・・・・・。

「う!!!?」

ムスイは背後にいるとてつもない気配に気づいた。振り向かなくてもわかる。いるのは「魔王」だ。・・・・・いや、恐ろしくて振り向くことができない。勝つとか負けるとかではない。存在のスケールが違いすぎる。これが魔王か・・・・・。私は完全に戦う意欲を失ってしまった。

「はじめまして、ムスイ。私が魔王だ。君とゆっくり話をしたくてここに呼んだ」

そう言われ、私はゆっくりと振り向く。こいつが・・・・・魔王。隣にいるのは・・・・・女神ではないか。2人は結託している? もしかしたらとは思っていたが・・・・・。

「まずはそこに座るんだ」

私は言われるがまま、魔王の正面にある椅子に座る。

「幾つか話しておかなければいけないことがあるため単刀直入に話そう。まずモコモコの件だが、私は魔族を差し向けていない。だから、モコモコが死んだのを私のせいにするのはお門違いだ」

「・・・・・それを信じろと?」

「お前も予想していたのではないのか。女神は人間に命令など下さない。それと同じで、魔王も魔族に命令したりはしない。人間は人間たちの世界で勝手に動く。魔族も同じだ。」

「フフフ、しかし魔王様、目の前に魔王と女神がいるのです。ムスイさんがそれを信じるのは難しいのではありませんか?」

「そうだな。そもそも、私と女神には名前などない。ただ、魔王と女神を名乗っているにすぎない。お前の思想で言うなら、私は神と呼ばれる存在だ」

「・・・・・神?」

「そうだ。この世界を生み出したのは私だ。女神をつくったのも私だ。そして、死んだお前をこの世界に転生させたのも私だ。だから、私は魔王と言うよりも神と言った方が良い存在になるな」

ムスイは戸惑っている。

「本当の話ですよ、ムスイさん」

・・・・・おそらく、それは事実なのだろう。

「なぜ、私をここに呼んでまで話す必要があったのですか?」

「このままお前を放置していては、魔王を憎み、魔王を倒すことだけを考え、永遠に魔王を探し続けることになっただろう。女神がそれを快く思わなくてな。ちゃんと説明するようにと言いだしてきかんのだ。それで、お前をここに呼ぶことにした」

なるほど。魔王様は女神さまに弱いようだ。

「そうだな・・・・・。まずはこの世界がどういうものかについて話をしようか・・・・・。この世界を作ったのは私だ。たまたま地球という星の、ムスイという男を観察していてな。やっている囲碁やインターネットのゲームに興味を持ってな。ゲームの中にいる魔族を育成してみたいと思った。そして作ったのがこの世界というわけだ。」

「だが、魔族の成長だけでは実に退屈であった。それで、私は人間や動物も同じ世界に解き放った。するとどうだ。はじめは弱いと思っていた人間が徐々に勢力を拡大していった。身体能力の高い魔族を、知恵でうわまわっていったのだ。」

「そこで私は考えた。もし人間を神にしたらどうなるのだろうか、とな。それが、お前をこの世界に転生させた理由だ」

「・・・・・・・・・・」

突拍子もない話だった。

「お前はたまたま事故で死んでくれた。私はムスイの記憶と、神の能力をある赤ん坊に移植した。お前はそうやってこの世界に転生することになった」

そういった経緯だったのか・・・・・。というか、私は神だったのか・・・・・。

「どうして私だったんですか? 人間なんてほかにいくらでもいたでしょう?」

「理由などない。たまたまお前が目についたというだけだ」

たまたまだった。

「・・・・・それで、神とした私にこの世界で何をさせたいんです?」

「特に何も。お前がどう動くのか観察する。それだけのことだった。お前は囲碁でやけに派手な戦い方をしていたな。100目差をつけて勝つという愚かな発想の戦い方だ。だから、この世界でもそういった生き方をするのだろうなと私は思っていた。」

「しかし、まったく違った。争わず、冒険もせず、田畑を耕し、静かに生活した。しかも、一人の女を追いかけまわすというていたらく。神の名を汚す行いだとしか言いようがない」

ボロクソ言われた。

「もう一つ、予想外の出来事がおこった。それはお前の人生がループしてしまう、ということだ。お前が死ぬと世界が逆戻りしてしまい、進まなくなってしまったのだ」

「どうしてそのようなことに?」

「お前はこの世界に組み込まれた神だ。神は死なない。この世界はお前の死を認めない。だが、お前は人間でもある。人間に神の様な永遠はありえない。いつか必ず死ぬ。世界の法則が矛盾してしまっている。その結果、世界はこの矛盾を正すためにお前を赤ん坊に戻すという選択をした。神を赤ん坊に戻すことで神の死をなかったことにしてしまっている。これがお前の人生がループし続けている理由だ。」

不思議に思ってはいたが、そのような理屈になっていたのか・・・・・。

「・・・・・そのループを終わらせることはできないのですか?」

「終わらせる必要があるのか? お前は永遠にモコモコと生きていくことができる。それで満足では無いのか?」

「確かにそれはそれで魅力的だとは思いますが・・・・・」

どのように言えば正確な言葉になるのだろうか。私は一呼吸おいて話した。

「・・・・・私には今までの記憶が全て残り続けています。永遠を、人間として生きていく自信がありません」

これは正確な言葉であっただろうか? いや、これが今の私の精一杯の言葉だ。魔王は私の言葉を聞き、眼をつむり考えている。

「そうか・・・・・。お前をこの世界に生み出したのは私だ。私に責任がある。だが、私にはお前のループを止める方法は無い。お前自身で終わらせる方法を考えてほしい」

途方もない話だ。創造主ができないことを私にできるはずがない。

「私の考えでは、お前には2つの道がある。一つは神となり永遠に生きることだ。もう一つは人間となり生涯を終えることだ。ムスイよ、どちらかを選べるとするなら、お前はどちらを選びたい?」

「・・・・・その2つなら、私は人間として生涯を終える方を選びます。モコモコと共に生き生涯を終わらせることができるのであれば、何の不満もありません」

「なぜ永遠を求めない?」

「それは・・・・・私が強くは無いからでしょうね・・・・・」

「そうか・・・・・、ならば人間として最善を尽くし生きていけ。そうすれば、いずれ、お前のループは終わりを迎えるかもしれないぞ。話はここまでだ。行け。」

そういうと、ムスイはこの空間から消え、仲間の元へと飛ばされた。

● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇

「うを!」

ムスイはシュートとサクヤの元へと戻ってきた。

「ムスイ! どこに行ってたんだ!」
「心配してたんだよ!」

2人はずっと私を探してたようだ。体中に草や泥がついている。

「う~ん・・・・・すまん、ちょっと魔王城に偵察に行ってきた」
「行くなら行くって言ってから行ってくれ!」
「ほんとだよ!」

マジで怒られた。

「すまん、本当に悪かった」

私は素直に頭を下げた。2人はそれで納得してくれたようだ。

「魔王城を調査してわかった。魔王を倒すのは無理だ。帰ろう」

そういって、私は馬のいる方へと向かって行った。

「ええ~!?」
「ここまで来たのに、本当に変えるのか?」
「ああ、警備が厳重過ぎる。見つかったら3人とも死ぬぞ。すぐに逃げた方がいい。」

それを聞いて、シュートとサクヤも急いで戻る。

● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇

「魔王様、ムスイさんに話した内容は正しいものではありません・・・・・」

「ああ、そうだな。嘘が嫌いな女神にとっては聞き苦しい話だったかもしれん。だが、あいつは期待外れだ。全てを話したところで、あいつには何もできない。ほおっておけば、あいつは人間を滅ぼすだろう。」

「・・・・・人間を滅ぼさない、という選択網は無いのですか? ムスイさんのモコモコさんに対する愛情はとても深いものがありました。囲碁でやるようなことをこの世界でやるとは思えません。私には、ムスイさんが人間を滅ぼすような存在になるとは思えません」

「ムスイはモコモコを愛していない。見ていてそれがわかる」

「・・・・・愛していない? 私にはそのように見えませんが」

「そうか・・・・・。そうだな。では順を追って話しをしよう」

魔王はムスイに関して話をしだす。

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「ムスイが初めて転生したときのことだ。あの時、女神の説明を聞いても、ムスイは自分の死を信じることはできなかった。しかし、自分は異世界で生きている。赤ん坊として生まれてきた。もう、信じるしかない。しかし、そうだとしてもムスイは現状を疑い続けた。死んだ人間が生き返るなどありえるのか? 転生などありえるのか? 自分は本当に人間なのか? ・・・・・とな」

「ムスイはずっと、自分が人間であるという確信が欲しいと考え生きていた。ずっとそれを探し求めていた。しかし、ある事実に気づいてしまった。自分は男女の性別を区別できない、とな。転生前はできていた。しかし、転生後はできなくなっていた。何故できなくなったのか? 理由は、自分が人間では無いからなのではないだろうか? そう考えるようになった。ムスイは最初から自分が人間では無いと考えていたんだ」

「そんなムスイの不安に気付いたのがモコモコと言う少女だ。モコモコはいつもムスイについて回っていた。あれは偶然ではない。モコモコはムスイの不安を感じ取っていた。ムスイのそばにいてあげなければいけないと考えた。だから、いつもムスイのそばにいた。モコモコはそういう性分だったのだ」

「ムスイとモコモコは結婚した。愛していたからではない。あの村には若い者はムスイとモコモコしかいなかった。結婚するのは必然だった。ただそれだけのことだ」

「その後、ムスイは病気で死ぬが、また生き返る。時間をさかのぼり、赤ん坊に戻ることになる。そしてムスイは考える。やはり自分は人間だとは思えない、と。あの時、ムスイは女神であるお前に”なぜループしているのか”を詳しく聞こうとしなかった。理由は簡単だ。女神が”あなたは人間ではありません”というのを恐れたからだ。」

「代わりに、ムスイはモコモコを探し求めた。何故か? それは、ムスイにとって、モコモコは自分が人間であり続けるために無くてはならない存在になっていたからだ。モコモコと共にいる時だけ、自分の中の人間を保つことができる。不安を解消できる。自分は人間なんだ、そう信じることができる。ムスイにとってモコモコとはそういう存在になっていた。」

「3度目の生でも、ムスイはモコモコを追い求めた。そして、婚約した。あれはムスイがモコモコを愛していたからではない。自分が人間であり続けることに執着した結果に過ぎない。ムスイは人間であり続けたいと考えている。モコモコを愛しているのではない。自分の中の人間を保つために必要としているだけだ。モコモコにすがっているにすぎない。」

そういう魔王を見て、女神は自分が生まれた時のことを思い出す。

幼かった女神は、自分を生み出してくれた魔王のことを、親であると同時に、最も大事な存在として認識していた。愛していたのだ。

しかし、その時から、魔王はうつろな目をしていた、まるで、愛を知らずに生きてきたかのように。愛の存在を認めていないかのように。

だから、女神はこういった。

「いいえ、魔王様。あれは愛ですよ」

「・・・・・そうか、お前にはそう見えるか」

「はい。ムスイさんにとってモコモコさんは無くてはならない存在です。モコモコさんにとってもそれは同じです。」

ムスイはモコモコを助けるために命を懸けた。モコモコもムスイを信じて待ち続けた。魔王はその時のことを思い出す。

「愛、か・・・・・」

「はい、人はそれを愛と呼びます」

「そうか・・・・・、ならば、そうなのかもしれないな」

そのように答えたが、魔王はそれでも愛だとは思わなかった。女神がそのように信じるのであれば仕方がない。女神をそう思わせたムスイを褒めるべきだろうか。

魔王は映像に映っているムスイを見ながら、こうつぶやく。

「だがな、ムスイよ。お前が望んでいようが、いまいが、お前の未来は変わらない。無限ループは終わらないぞ」

● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇

ムスイたちはアンス村に戻ってきた。

一番に出迎えてくれたのはモコモコだった。村長から魔王を倒しに行ったのだと聞いたため、ひどく心配していたからだ。モコモコはずっと村の入り口で帰りを待ち続けていた。

「ムスイ!」

そういってムスイの胸に飛び込む。

「魔王なんて倒さなくていいんだから、危険なことはしないでよ!」

モコモコはそう言って泣いていた。私のことをこころから心配してくれていたのだ。

「心配かけてごめん。魔王退治はもうしない。危険すぎると判断したよ」

そういって、私はモコモコのほっぺにスリスリする。

「お~お~、お熱いですね~」
「オイオイ・・・・・」

冷やかすサクヤに、苦笑いしながらサクヤをたしなめるシュート。そして2人は村の方へと歩いていく。

モコモコはなんだか恥ずかしくなり顔を赤らめる。しかし、ムスイは気にしない。ムスイはモコモコをお姫様抱っこして、シュートとサクヤの後ろからついていく。

「魔王退治はシュートとサクヤにまかせることにしたよ。お前たち2人ならきっとやれるだろうからね。」

「ええ~!!」

「ムスイがいて無理だったんだから、無理だろ!?」

「いや、修行次第だな。今のペースで畑をしっかり耕し、体を鍛え続ければ魔王を倒せるくらいにはなるはずだ。シュートの成長はずば抜けているからな。いつか必ず魔王を倒せると保証するよ」

「そ、そうなのか?」

「嘘だ。騙されるな。」

「ね~も~おろしてよ~」

そして、4人は村の中へと入っていった。

~~~第1章 完~~~

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