■どうやって魔熊を倒せばいい?
家に帰ると、モコモコと父さん、母さんの3人が待っていた。
モコモコが私の方に駆け寄ってくる。
「ムスイ、大丈夫だった? 怪我しなかった?」
「あら? 魔熊の肉は? 解体の準備はできているんだけど?」(母)
「いや・・・・・、とても勝てそうになかったから逃げてきたよ」
私はうなだれてそう言った。
「怪我が無かったのなら良かったよ」
モコモコは笑顔でそう言ってくれた。
「いやいやいや、どうするんだムスイ?
村のみんなはキャンプファイヤーを
村の中央に設置しているぞ?
今更無理でしたは通用しないんだぞ?
わかっているのか?」(父)
ボロクソな言い分である。
なんで私があんなバケモノの責任を負わねばならないのか。
しかも、倒せるのが当たり前だと思っている。
さすがに腹が立ってきたな。
いやいや、こんなことでイラついても仕方がない。
とりあえず落ち着こう。
冷静になろう。
モコモコを担いだ。
「ええ~! 何で~!(ジタバタ)」
私だってまったく策が無いわけでは無い。
ここに戻って来るまでに、ちゃんと考えていた。
私は家の中にある「赤いヒモ」を数本と、「長い縄」を用意した。
よし、準備は万端だ。
これさえあれば魔熊に勝つことができるはずだ。
私は肩の上で大人しくうなだれるモコモコを床に下ろした。
そして、モコモコに言った。
「倒す策はある。
必ず何とかするから安心して待ってろ」
そう言って、私はモコモコの頭をなでる。
モコモコは「私を担ぐ理由なかったよね?」という抗議の眼を送り、頬を膨らませていたが、私は眼をそらし気づかないふりをした。
「それじゃあ、行ってくる」
そう言って、私は再び家を出た。
モコモコと両親は玄関で私を見送った。
「気を付けてね~!」
「肉を待ってるわよ~!」
「父さんの剣があれば必ず勝てるぞ~!」
3人は私が見えなくなると家の中に入っていった。
「ふぅ、ムスイ、大丈夫かな・・・・・」
「茶菓子でも食べて待っていれば、何事も無かったかのように帰って来るさ」
「あら? これってムスイの剣じゃない?」
「ん? ああ、確かにムスイの剣だな」
「え? おじさん、それってどういうこと?」
ムスイは魔熊と戦うために出て行ったのに、武器がここにある。
武器がここにあるなら、戦えないのではないか?
そんなことを考えながら、3人は顔を見合わせる。
しばらく、沈黙が流れた。
「武器を持っていくのを忘れたんだろうな」
「それじゃあ、ムスイはどうやって戦うの?」
「・・・・・(沈黙)」←父
「・・・・・(沈黙)」←母
「・・・・・う、うわ~ん! 武器を届けにいく~!(号泣)」
モコモコは泣きながらムスイの剣を抱いて外に飛び出そうとする。
それを父さんと母さんが羽交い絞めにして必死に止める。
「お、落ち着いて! モコモコちゃんが行くのは危険だ!」
「ムスイなら必ず逃げて帰って来るから!」
「うわ~ん!」
■魔熊戦、第2ラウンド
私は「とある地点の木」にヒモを結ぶ。
そして、紐の先端に紐の先端に30cmほどの枝を取り付ける。
後は場所がわからなくならないよう、幾つかの木の枝に赤いヒモを結んで目印にした。
「よし、これでいい。
後は魔熊をここに誘い込むだけだ」
魔熊を探した。
いた。相変わらずでかいな。
さっきの恐怖を思い出し、身震いする。
魔熊も私に気づいた。
そして、気づいたとたん、
「今度こそは逃がさんぞ!」と言わんばかりに私に向かってくる。
「な、なんて凶暴な奴なんだ!」
私は全力で逃げだした。
そして、さっき仕掛けを作った場所を探す。
赤い目印、赤い目印は・・・・・あった!
私は勢いよく走り、印をつけていた木の枝をつかみ、その先へと飛び出した。
そこは・・・・・崖だった。
ムスイはヒモで結ばれているため、大きく半円を描くよう回転して
結んでいた木の反対側の崖の方に戻ってきた。
追ってきた魔熊は・・・・・足元が無い!?
そのまま真っ逆さまに崖の下へと転落していった。
「ふ~・・・・・さすがに生きてはいないだろう」
私は回り込んで崖の下に降りた。
「ええっと・・・・・この変だと思ったんだけど・・・・・
お、いた!」
そこには倒れて動かなくなった魔熊が横たわっていた。
コッソリと近づく。
生きてないよな?
魔熊の手を見てみる。
「おお、この爪、凄いな~」
私は倒れている魔熊をつっついてみた。
まったく反応が無い。
どうやら間違いなく死んでいるようだ。
「ふ~、良かった。
これで生きていたらお手上げだぞ~」
なんかどっと疲れた。
あ~、そういえばキャンプファイヤーが何とか言ってたな。
この肉をみんなが待っている、と。
面倒ではあるが、仕方がない。
とっとと持って帰るか。
・・・・・しかし、どうやって運べばいいのか?
私は魔熊を紐で結んで引っ張った。
「お、重すぎるやろ・・・・・
ふん! ふん! ふ~ん!!」
私は倒すとき以上に苦労して、魔熊を村へと運んだ。
■キャンプファイヤー
村の皆は肉を調理し、焼肉をしながらお酒を飲んでいる。
とても楽しそうだ。
私は焼いた肉を持って、少し離れた木の下に陣取った。
今回の戦闘の収穫はこれか~。
「パクリ」と食べる。
ま~、味は悪くない。
そこへモコモコがやってきた。
「お疲れ様」
「ああ」
モコモコは私の隣に座る。
「みんな酷いよね。危ないことをみんなムスイにやらせて」
「この村には若い人がいないからね。仕方がないよ」
「でも・・・・・」
モコモコは不満そうだ。
「魔物はこれからも村の近くに現れると思う。
だから、村を囲うように堀をつくろうと思うんだ。
そうすれば魔物も簡単には村には侵入できないだろうからね」
「堀って・・・・・掘るの? 村の周り全部?」
「まぁ、そうなるね。
大変だけど、村を守るためだ。仕方がない」
「ふ~ん・・・・・」
モコモコは膝を抱え、膝で頬杖をつきながらジッと私を見ている。
「手伝えそうにないけど、毎日お弁当作るね」
「おお、そうか! それは助かるよ」
「頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
明日からまた忙しい日々が始まりそうだ。
異世界というものは苦労が多いものだ。
私はあらためてそんなことを考えていた。