「それじゃあ、次は私の方から質問させてくれ。シュート、お前が持っているその武器はどこで手に入れたんだ?」
「これか? これは神様から授かったものだ」
「神様?」
「ああ、全知全能の神ミライ様だ」
「ミ、ミライ!? 神様の名前が、ミライ、というのか!?」
魔王さんはものすごく驚いている。
「ああ、そうだが・・・・・、ミライ様を知っているのか?」
「あ、ああ・・・・・、なんというか・・・・・、それ、私の娘だぞ」
「ええ!」
「ぜ、全知全能の神ミライ様が魔王の娘!?」
2人は驚いている。私もビックリだ。
「3000年も立っているからもう死んでいると思っていたが、そうか・・・・・、まさか神様になっていたとはな・・・・・。それで、ミライ以外に神様はいるのか?」
「いや、神様はミライ様だけだ。他に神様がいるだなんて話は聞いたことが無いが。 ・・・・・いるのか?」
「ま~・・・・・、いる、はずなんだがな~」
魔王さんは首をかしげながら、頭を手でかきながら、そう言った。
「ミライにあったということは、ミライがどこにいるのか知っているということだよな?」
「ああ」
「そうか・・・・・、なら会いに行くとするか」
そういう魔王さんの表情は、なんだか暗く曇っていた。3000年ぶりに自分の娘に会いに行くというのに?
「それで、神様から受け取ったというその剣の名前は知っているのか?」
「勇者ムスイの剣だ」
「フフ、勇者か」
魔王さんが噴き出すように笑った。
「何かおかしいことがあるのか?」
「いや、実はそれは私が昔使っていた剣なんだよ」
「え? 魔王の剣?」
「ああ、私の名前がムスイというんだ。私の剣だから『ムスイの剣』と呼んでいた」
「そうだったのか」
魔王さんは私の方を見る。
「そして、モコモコ」
「え? 私?」
急に話しをふられた。
「モコモコが持っているその弓も神様から受け取ったんだろう?」
「はい、そうです」
「その弓の名前は何と言うんだ?」
「『聖女の弓』だそうです」
「そうか・・・・・、まぁ、そんなところだろう」
魔王さんは一人、納得したかのようにそういった。何かありそうだったけど、魔王さんは語る気が無さそうだ。
「ねえねえ、魔王は何でも知ってるようだけど」
「何でもってわけでは無いぞ」
サクヤちゃんが魔王さんに質問する。
「シュートとモコモコちゃんは武器を貰えたのに、私だけもらえなかったんだよ。魔法使い用の伝説の武器は無いの?」
「杖はあったんだが、木でできているからな~。なにしろ3000年も前のものだし、腐ったんじゃないのか?」
「そんな~・・・・・」
魔王さんは笑った。
「だけど、サクヤ、私から見れば3人の中でお前が一番衝撃的だったんだぞ」
「ええ? 何が?」
「お前、歳幾つだ?」
「18歳だけど」
「そうか、お前は18歳で身長が伸びるタイプだったんだな~」
「ええ!!」
「17歳まではこんなに小さかったじゃないか」
そう言って、魔王さんは1年前のサクヤちゃんの身長を手で表現する。・・・・・あってる。
サクヤちゃんは顔を真っ赤にして魔王さんに抗議した。
「なんで! なんで1年前の私の身長を知っているの!」
「魔王は何でも知っているものなんだよ」
「ええ~!」
「それに、お前が女だったんだな~」
「どういう意味よ!」
「私はずっと男だと思ってたぞ」
「どういうこと!? 身長が低くても私は女にしか見えないでしょう!」
「いや、胸が全くなかったから」
「なんでそんなことまで知ってるのー!」
「ハハハハハ!」
こうして、魔王さんとの不思議な晩餐会は日が暮れるまで続いた。
■■ モコモコの憂鬱
「疲れたろう。そろそろお開きにしようか。部屋を用意しているから、今日はそこで眠てくれ」
そう言って、魔王さんは立ち上がり、通路へと出ていく。私たちはそんな魔王さんの後ろからついていった。
「シュートはこの部屋を、モコモコとサクヤはこっちを使ってくれ。明日の朝、生まれ故郷の国に送り届けてあげるから。それじゃあな」
そう言って、魔王さんはどこかへ行ってしまった。
私たち3人は顔を見合わせる。まさか魔王城に泊めてもらうことになるだなんて。こんなことになるだなんて考えもしなかった。
「とりあえず、寝るか」
「そうだね。私も今日は疲れちゃった」
そういってサクヤちゃんは私に抱き着いて来る。私がサクヤちゃんの頭をなでると、サクヤちゃんは気持ちよさそうに私にスリスリしてくる。
「それじゃあ、シュートくん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。サクヤ、モコモコさんも疲れてるんだからあまり面倒かけるなよ」
「うん~・・・・・」
そう言って、私たちはそれぞれの部屋に入った。
部屋の中は、大きなベッドが1つあった。二人でこのベッドを使いなさいと言うことだろう。サクヤちゃんはベッドに倒れ込む。
「うわ~・・・・・こんなに柔らかいベッド初めて~・・・・・」
私も触ってみる。本当にやわらかい。それに、とてもきれいだ。魔王さんは食事だけでなく、寝るところまで前もって用意してくれていたんだ。意外と家庭的だ。私は魔王さんが料理していたり、布団を干したりしているところを想像する。
「フフ・・・・・フフフ・・・・・」
なんだか想像すると、おかしくて笑いが止まらなくなってしまった。
「ス~・・・・・ス~・・・・・」
サクヤちゃんはもう眠ってしまっている。私はサクヤちゃんを抱き上げて、ベッドの中央に移動させ、布団をかける。
私はベッドから降り、窓の方に移動する。外は月明かりで、夜とは思えないほど明るかった。魔王城は小高い丘の上にあるため景色もいい。私はしばらく窓辺で外を眺める。
(シュート君とサクヤちゃんとは、明日でお別れなのか・・・・・)
私は魔王さんと取引きを行った。これから私はずっと魔王さんと生きて行くことになる。ここに来るまでは2人と別れる日がくるだなんて考えたことも無かった。だから・・・・・。
ううん、後悔はない。この選択に間違いはない。でも・・・・・。
私はベッドに入った。そして、サクヤちゃんをギュッと抱きしめた。眠っているサクヤちゃんもそれに反応するように私を抱きしめる。サクヤちゃんとこうして眠るのも今日が最後だ。そんなことを考えながら、私は涙を流した。