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【モコモコ道】世界の平和とは②

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「魔王、お前は神なんだよな?」
「ん? ま~、神と考えて差し支えないということだな」
「人族の目的は魔王を倒すことじゃない。魔族を倒して、世界を平和にすることなんだ。そのために、魔王を倒さなければいけないと考えていた。神である魔王の判断として、人族と魔族の戦いの終着点はどこにあると思う?」

魔王は「う~ん」とうなるように少し考えた。

「その答えを持っているのは神なんじゃないかな? ま~、神がどのように判断しているのか、私は知らないからな。その上で語らせてもらうが、おそらく人族と魔族の戦いは終わらない。人族と魔族は永遠に殺しあうように仕向けられている」
「永遠に・・・・・殺しあう・・・・・?」
「ああ。先ほど話したが、人族にとっての神と、魔族にとっての神はまったく同じだ。全知全能の神ミライは人族を助けているが、それと同じように魔族も助けているはずだ。どちらが正義とか、どちらが悪とかではない。神はどちらも平等に扱っている。勝った方が世界を収めるということではない。おそらく、神は人族と魔族の均衡が保たれるようにしている。人族が有利なら魔族に手を貸し、魔族が有利なら人族に手を貸す。そのようにしているんだろうな。だから、人族と魔族の戦いは永遠に終わることは無い。私はそのように判断している」
「そんな、バカな!! ミライ様が魔族に手を貸すだなんて!! ミライ様は人族のことを真剣に考えてくれている!! 会って話をしたんだ、間違いない!!」

俺は思わず怒鳴り散らしてしまった。そして、我に返る。

「す、すまない、魔王。怒鳴ったりしてしまって・・・・・」
「いや・・・・・」

魔王は立ち上がり、その場を行ったり来たりし始める。

「う~ん・・・・・」

俺に話すための言葉を考えているようだ。俺の対応がまずかったせいで、魔王に気を遣わせているようで申し訳ない気分だ。

「そうだな、もし人族が魔族を全て倒せば、この世界は平和になると思うか?」
「人を殺す魔族がいなくなれば平和になるに決まっている」
「確かに一時的には平和になるだろう。しかし、長い目で見れば世界のバランスが崩れてしまうことになる」
「世界の、バランス?」

魔王は神に三角形の図を書き、説明し始めた。

「魔族を絶滅させた場合、世界の頂点に君臨するのが『人族』となる。その下に『魔物』、そして『動物』となり、『食物』となる。人は魔物や動物、植物も食べる。下に行くほど個体数が多く、上に行くほど個体数が少ない。わかるか?」
「ああ、わかる」
「このバランスが保てていれば問題は無い。しかし、魔族がいなくなり、人族一強になってしまったら、このピラミッドはこうなってしまうんだ」

魔王は一番上にある「人族の三角形」を大きなものに書き換えた。

「平和であるがゆえに、人族は増えてしまうんだ。人族が増えれば、森を切り開き、自然を破壊してしまう。そうなると、魔物や動物の住む世界が減っていく。魔物や動物は減り、人族は食べるものが無くなってしまう。では、人族はどうすると思う?」
「・・・・・いや、わからない」
「人族は魔物と動物を捕らえるんだ。そして、狭い場所で飼育し始める。自由を奪う。強制的に子供を産ませ、大きくなったら殺し、食べる。そういった食べるためだけの生産システムを作る。そうすれば、人族が食べる分の食料を維持することができる」
「食べ物だけじゃない。魔物や動物を閉じ込めるわけだから、森に魔物がいなくなる。人族にとってはとても安全だ。人族は世界中の土地を自由に扱えるようになる。そう、人族はこの世界の完全な支配者になるというわけだ。シュート、わかるか? これが人族一強になった世界の未来だ。人族が平和になったが、人族は世界の支配者として魔物と動物たちを奴隷以下として扱い始めるんだ」
「し、しかし・・・・・、必ずそうなるとは・・・・・」
「いや、必ずそうなる。人とはそういうものだ」

魔王は断言した。

「神は人族一強では世界が破滅へ向かうと知っている。だからこそ、神はもう一つの種族を生み出した。それが『魔族』だ。魔族がいれば、人族と魔族は戦い始める。人族一強にはならない。」

魔王はピラミッドの上に「2つの三角形」を描いた。

「人族と魔族の二強であれば、お互いが殺しあう。そうなれば、ピラミッドの頂点が膨大に膨れ上がることは無い。世界の平和は保たれる、というわけだな。フフフ・・・・・、人族と魔族が殺しあって『世界が平和』なのだから皮肉なものだろう。つまりは、そういうことだ。神は人族の為に存在しているわけでは無い。魔族のためでもない。ピラミッドの下層にいるか弱き命を守るために動いている。それが、神というものだ」
「・・・・・」

俺はなんと答えればいいのかわからなかった。

「ま、私の妄想だ。それが事実かどうかなど知らないし、いちいち神に聞く気も無い」

そう言って、魔王は立ち上がり、東の空を見つめた。地平線から朝日が昇り始めている。魔王はそれを、なんだか悲しそうな目で見つめていた。

「太陽があの山の頂上付近まで上がったころに朝食にする。食べ終わったら出発だ。ここを出る準備をするようモコモコたちに伝えておいてくれ」
「ああ、わかった」

魔王は3階の屋上から飛び降り、地面に着地した。そして、そのまま森の中へ入っていった。

魔王がいなくなり、俺は一人椅子に座ってボーっとしていた。そして思う。俺は・・・・・この世界のことを何も知らない。いや、何も考えてこなかったんだ、と。

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